11.

 
夏休みが終わった2学期から綾目は高校に通うことになった。お腹の赤ちゃんのためにも高校は卒業しておきたかった。そして周囲の友達も理解してくれて優しく応援してくれた。だが、綾目のおむつはまだ取れていない。その事を知っているのは、森君と綾目の親友の沙希とほのかだけだ。綾目は毎回の休み時間におしっこが出そうになくてもトイレに行って少しでも出す生活をして学校でお漏らしをすることは避けることができていた。安心した綾目にとってはおむつの心配より、友達との新しい話題だ。ある程度は森君からも聞いていたが、やはり女の同志の会話の中でも遅れを取りたくなかった。
いろいろな話題の中で通話料金がかからない携帯電話の話を既に母親に話してあった。この方法で母親は海外にいる父親と金額を気にしないで随分と綾目のことで話し込んで来た。電話で問題になったのは、金額ではなく時差だった。時差といっても父親が赴任しているのはベトナムで時差は2時間だ。その時差をうまく合わせて母親は海外に居る父親と随分話しているのだった。さらにそこを一歩踏み出して綾目はテレビ電話も無料でできることを知った。早速、森君や母親と相談してみるが、やはり照れくさそうになってあまりテレビ電話の会話が盛り上がらない。綾目は海外にいる父親と森君をテレビ電話で会わせてしまおうと考えていた。それを聞くと母親は早速時差を考慮した父親と森君との初顔会わせに賛成してくれた。そして早速週末を利用してのテレビ電話で森君は、綾目さんが妊娠してしまいましたので綾目さんをください、と父親にお願いをしてくれた。じゃ、正月は日本に帰るからその時はお節ち料理を一緒にいただこうという話で締めくくられた。
森君はようやく綾目の父親にお願いをすることができて、安心して寝ることが出来た。安心したというか、大きな登山を終えたような体が異様にだるい感じがして森君はベッドに入っていつものように寝た。
 
体のだるさを感じながらも森君はふと目を覚ました。そこは何もかもが大きな部屋だった。窓の外は少し明るくなっていて朝が来るようだ。そして大きなベッドのすぐ隣から可愛い女の子の寝息が聞こえる。可愛い女の子といっても体は森君に比べると遥かに大きい。体は大きいが小学生位のあどけない顔から小さな寝息が漏れている。
「ここはどこだ」
森君は慌てたが、自分が小さくなって大きな世界に迷い込んでいることを知ると前に綾目から聞いた話を思い出した。綾目もある日突然にそういう世界に行ってしまってから赤ちゃんのようになってしまったのだ。なぜ自分もそういう世界に来てしまったのかは分らないが、少なくとも綾目の話を思い出すと今さらながらに綾目の話をもう少し詳しく聞いておけばよかったと思う。でも綾目にしてもどうしてそういう世界に行ったのか、そしてどうやって帰ってきたのかは全然分らなかったのだ。どうしていいか分らないまましばらくそうしていると部屋がノックされた。
「マドカ、起きなさい。朝よ。小学校に遅れるわよ」
部屋のドアが開き、この子のママと思われる言葉を聞くと森君は布団を被って隠れた。その布団をママは糸も簡単に捲った。
「マドカ、起きなさい」
ママは目を点にして森君を見つめた。マドカはまだ寝ているが、ママは急に愛らしい顔になって森君を抱きあげた。
「マドカ、小さな赤ちゃんのお客様よ。でも綾目ちゃんじゃないわよ。今度は男の子よ」
「男の子の赤ちゃん?」
マドカは目をこすりながら起き上がるとママが赤ちゃんのように抱いている森君を見る。森君はママとマドカという小学校の女の子を見ると改めて体が大きいと感じる。二人が大きいのか、自分が小さくなってしまったのか分らなくてもその差だけでは歴然として存在する。
「本当だ、可愛い、私に抱かせて」
ママは森君をマドカに渡すと急なお客さんにも関わらず手なれた手つきで朝の準備をこなしていく。
「マドカ、前に来てくれた綾目ちゃんのようにしましょうね。急なお客さんだけどお着替えしてもらって保育園に預けて、マドカは学校に行くのよ」
「は〜い。でも可愛いね。小さな赤ちゃんだね。学校から帰ってきたら一杯お話して一杯遊ぼうね」
森君は綾目が迷い込んでしまった世界に来てしまったことを確認した。でもどうして、そしてどうしたら元の世界に帰れるのか、そんなことを考える余裕もなく、朝の出かける準備に付き合わせられる。
「名前は何て言うの」
「森です」
「そう、森ちゃんね。朝の出かける前だから詳しい話は後にしてベビー服に着替えて保育園に預けるわね。詳しい話は家に帰ってきてからね」
「ベビー服ですか」
森君は綾目が大きな世界に行って赤ちゃんのようになってしまったことは聞いていたが、どうしてそうなったのかはあまり覚えていない。まさか自分もその世界にきてしまうのなら、もう少し聞いておけばよかったと思う。綾目は説明してくれたのかも知れない。でも森君はどうやって赤チャンのようになってしまったかより、未来の大きな世界の風景の方が森君に興味があった。赤ちゃんのようになった経緯は聞いていたかもしれないが全く覚えていない。そんな非現実的なことが自分の身に起きようとしていることを知ると森君はみまがえてしまう。
「マドカ、綾目ちゃんのベビー服は綾目ちゃんにあげちゃったけど、記念に一式だけ残しておいてよかったわ。綾目ちゃんのベビー服を取ってくるね。男の子だけどこう急だと仕方ないものね。森ちゃんのお洋服を脱がしておいてくれる」
「は〜い、森ちゃん、ベビー服に着替えようね」
「ちょっと待って」
森君の抵抗は大きな体のマドカにとっては何の抵抗にもならない。まるで小さな虫がマドカの手の中で動いているかのようだ。森君は思い切り力を入れてもそれはマドカにとってはくすぐったいレベルの力だった。マドカは森君を抱いたまま、森君の着ている服を1枚1枚と脱がしていく。
「いい子にしてお着替えしようね。綾目ちゃんのベビー服のお古だけど可愛いかったよ。君にもきっと似合うからね」
「綾目のベビー服ですか。やっぱり綾目はここへ来て赤ちゃんになったのですか」
「そうよ、体が小さいから赤ちゃんになるのが当然でしょ。綾目ちゃんはこちらの世界ではそうしてもらうしかなかったんだよ」
「体が小さいから高校生が赤ちゃんになったの?」
「そうだよ。トイレまでも歩けないし、トイレのドアだった開けられないし、仮に入っても体が小さかったから落ちたら大変でしょ。だからおむつを当てて赤ちゃんになったんだよ」
「お、おむつ?」
「赤ちゃんがおむつするのは普通でしょ。森ちゃんにもおむつを当ててベビー服を着させてあげて涎かけも付けてあげるね」
「そんなの要らないから。このままでいいから」
「だってもう朝だからおしっこもしたいでしょ」
森君は言われるまでもなく、朝のおしっこを催していてどうしたものか困っていたのだ。だからと言って高校生にもなっておむつを当ててお漏らしするなど考えられない。だが、マドカの言うことも分る気がする。こんな大きなベッドから抜け出てトイレまで行ったとしても巨大なドアを開けられないし、仮に開けることができても多分大きな便器にどうやって腰掛けられるだろう。梯子でもなければ便器の上に上がることできず、上がってもどうやって座ればいいのだろう。滑って便器の中に落ちるなんて最低だ。
「あ、おちんちんだ」
マドカは森君の最後に着ていたトランクスも脱がしてしまった。森君は素っ裸にされて大事な場所を見られたと思うとすぐに手で隠した。
「本当に男の子なんだね」
「ほっとけ」
「ベビー服一式を持って来たわよ。まずおむつから当てるからもう全部脱がしてくれた」
「うん、脱がしたよ。もう森ちゃんは素っ裸だよ」
「そうね、じゃ早くおむつから当てましょうね。風を引いたら大変だものね」
「おむつなんて要らないから」
森君は大事な場所を手で隠しながら抵抗してじたばたするが、マドカにきつく体を抑えられるとさすがの森君も身動き一つできない。
「マドカ、森ちゃんを押さえていてね。元気のいい赤ちゃんにまずはおむつをあてないとね」
ママは押さえつけられている森ちゃんに手早くおむつを当てていく。綾目が当てたのだろう可愛いピンクのおむつカバーが森ちゃんのお尻の下に引かれるとその上に布おむつが敷かれていく。そしてその上に森ちゃんを寝かせるとあっと言う間におむつが森ちゃんの下半身を包み、さらにおむつカバーが留められていく。大事な場所がおむつで隠れたことに一息付くとピンクのシャツを着させられさらに可愛いスカート付きのロンパースも着させられて大きな真っ白い涎かけも付けられた。
「森ちゃんは準備いいかな」
「じゃ、私たちも出かける準備よ」
「は〜い」
マドカとママは朝ごはんを食べ始めた。森ちゃんには哺乳瓶に入ったミルクが用意されたが、森ちゃんはそれどころではなかった。朝から出したくて仕方がないおしっこと格闘していた。もう漏れてしまうほどの尿意に朝ごはんどころではない。それに哺乳瓶からのミルクでは飲みたい気持ちも失せてしまう。おいしそうに朝ごはんを食べるマドカとママの姿を恨めしそうに見ているとマドカがミルクを飲んでいない森ちゃんに気付いた。
「森ちゃん、ミルク飲まないの。抱っこして飲ましあげようか」
「要らないから」
「そう、困った子ね。保育園でしつけてもらいましょうね。時間も無いから行くわよ。もう食べ終わったでしょ」
「は〜い」
今にも漏れてしまいそうなおしっこと格闘しながら森ちゃんはマドカに抱っこされると庭に出た。そこには綾目から聞いていた空飛ぶ車があった。そのデザインも色も今まで見たこともない斬新なものだった。だが、道を走る車と見かけはさほど変わった事はない。羽があるわけではないし、飛行機のような大きなエンジンもないようだ。これが空を飛ぶのか。おしっこの事はしばし忘れてその車に見入っているとマドカは後部座席に座る。まもなくママは運転席に座るとエンジンをかけた。といっても本当に静かな音だ。
「じゃ、マドカ、森ちゃんを押さえていてね」
マドカはシートベルトをすると森ちゃんを窓側に立たせて背中から押さえた。間もなく車は静かにゆっくりと上昇していった。
「ほ、本当だ。車が浮き始めた」
森ちゃんは綾目から聞いていた車が空を飛ぶことを初めて経験した。その風景にびっくりしていると森ちゃんはおしっこを漏らし始めていた。大きな重い車が空に浮かんでいく中でおしっこのことなど忘れて漏らしていた。漏らしている感覚などなかった。このすばらしい車が浮いていることに比べればおしっこなどどうでもよかった。このすばらしい風景をおしっこを我慢して見るなどありえなかった。楽になってこの風景を楽しみたかった。おしっこを漏らす、おむつの中に漏らすことなどの恥ずかしさはもう消えていた。
「ママ、森ちゃん、お漏らししたみたい」
「車の中では替えてあげられないから、保育園で替えてもらいましょうね」
「そうだね、森ちゃん、初めてのお漏らしだからね」
 
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