19.
 
「宅急便かしら」
光代は玄関に向かった。一也はすみれに未来のことを話し続けた。綾目も相槌を打ちながら未来のことを話していた。
「桜間です」
「どちらの桜間さんですか?」
玄関には桜間恵子と娘のマドカが立っていた。桜間という小さな声を聞くとまさかと思いつつも一也も玄関に向かった。
「桜間恵子と言います。こちらら娘のマドカです」
「あ、お兄ちゃん、こんにちわ。いい子にしている?」
「こんちわ」
「一也、知り合いなの?」
「さっき話した桜間さんだよ」
「今日は大切なお話がありまして訪問致しました。樹賀さん親子もご一緒ですよね」
「ええ、奥にいますので。ではどうぞ上がってください」
桜間親子はリビングのソファに案内された。お茶を用意し光代がリビングに来ると恵子が話し始めた。
「初めまして、桜間恵子です。こちらは小学校5年の娘のマドカです。今日は大切なお話がありまして伺いました」
「私は樹賀 すみれです。綾目の母親です」
「私は森 光代です。一也の母親です」
一度は会っている恵子だが、未来の人と改めて紹介を受けたので、すみれも光代も初対面のように挨拶をした。
「一也、桜間さんのさっきの話は本当なのね」
「そうだよ。目の前に居るから信じてよ」
「お母様たちとは初対面ですから無理もないですけど、是非お話を聞いてください。お子様たちが未来に来られたのは本当です。もうなんども未来の生活を経験しています。でもどうしてそういうことが起きているかを説明させてください」
すみれと光代は困惑しながら初対面の桜間の話を聞くしかないと思う。一也と綾目は本当のことを話してもらえると思うと安心する。
「実は綾目ちゃんと一也ちゃんは赤ちゃん返りをしています。御自宅で赤ちゃんのようになっているのでそれは分っていただけますね。そこで私たちはその赤ちゃん返りを直すために未来を行ったり来たりしていますし、お子さんたちも未来に行き来して生活しています」
「私たちと仰いますと?」
「ええ、私と娘のマドカです。後必要に応じてもう1名が来ますが、今は居ません」
「それで子供たちのこの赤ちゃん返りは直すことができるのですか?」
すみれは綾目の世話をもう4カ月もしている。薬はなかなか効果が見えないし何かすくいが欲しいと思っている。
「二人の赤ちゃん返りを直すにはおむつを替えてあげながら母乳で育て直すことが必要です」
「おむつの世話と哺乳瓶からのミルクをもう何回も飲ませていますよ」
「ですからさらに母乳が必要なのです」
「母乳にどんな効果があるのですか」
「母乳が赤ちゃん返りを直すことは、医学的に証明されています。こちらの時代ではそのようなことは聞いたことがないと思いますけど、未来では常識になっています。私たちは赤ちゃん返りをしている過去の患者さんを助けるために働いています」
すみれと光代は遠い未来で医学的に証明されているとしても不安を感じる。それに母乳といっても子供が高校生にもなるのに出るわけがない。
「私たちの子供はもう高校生ですよ。仮に母乳が効果があるとしてももう出ませんよ」
「そこなのです。未来では出産経験がある女性が薬を飲むことで母乳が出るようになります。もう未来ではそれは当たり前ですよ。そのことをここでお見せしましょう。やはり百聞は一見にしかずですから。ただし、30分ほど時間がかかりますがよろしいでしょうか」
「ええ、時間はいいですけど。どんな風に見せていただけるのですか」
すみれと光代は自分たちはそんなことはできないが、見せてもらえるなら見てみようという興味はあった。すみれも光代も自分たちの子供をあまり母乳で育ててはいない。いづれもパートに精を出し、子供は保育園に預けることが多かった。それでも綾目も一也も高校生まで無事に大きくなったので、問題なかったと思っている。
「私が今、母乳を出す薬を飲みます。30分ほどでバストが張ってきます。それを娘のマドカが吸ってくれます。マドカ、吸ってくれるね」
「はい、ママ、お仕事だもんね。いつものように見本になるように吸うよ」
「じゃ、始めますね」
恵子は小さな白い錠剤を皆に見せるとそれを水も飲まずに飲みこんだ。惜しげもなく、シャツを上げると右側のブラジャをあげ、その先の乳首を摘まんでもそこから母乳が出ないことを見せた。
「今、母乳は出ていませんけど、30分ほど待ってください」
恵子はバストをしまった。皆は女性の大事なバストを簡単に見せたことに唖然とした。特に一也は未来でいろんな人のバストを吸っているが、それでも緊張してしまう。すみれと光代は恵子が出すだろう母乳をマドカが吸うと聞いて安心していた。赤ちゃん返りをしている綾目と一也に恵子が母乳を与える姿は見たくない。赤の他人の母乳を我が子には吸わせたくないからだ。
「皆さん、もうひとつお知らせしておきます」
すみれと光代はまだ何かあるのかと思う。それでも薬が効いたことを見るまでの時間潰しに好都合だ。
「さきほど、母乳が赤ちゃん返りを直すことを説明しましたが、じつは実の子供に母乳を授乳することが一番効果があります」
「そんな高校生の子供に母乳をあげるなんて」
すみれはもちろん、無精髭も生えている息子に母乳を授乳するなんてとんでもないと光代も思う。かといって恵子の母乳を我が子に吸わせることもさせたくない。
「そういう方は多いです。そのために未来では保育士の女性が赤ちゃん返りをしている患者に授乳しています。綾目ちゃんも一也ちゃんも保育士から何度も授乳を受けています」
「一也、本当なの。知らない女性の母乳を吸っているの?」
「未来では体は小さな赤ちゃんだからそうされちゃってる」
「不潔ね」
「お母様、そんなことはありません。赤ちゃん返りを直すための行為ですから不潔ではありません」
光代は一也が知らない女性の母乳を吸っている姿を想像もしたくない。一方、すみれには感謝の表情が顔に浮かんだ。綾目の赤ちゃん返りを直すために大切なバストから母乳を授乳してくれるのは感謝に値する。
「そろそろ張って来たわ、マドカ準備はいい?」
「いいよ」
恵子はシャツを脱ぐと、ブラジャも外した。膝の上にマドカを横に寝かすとマドカの口を右側のバストに付けていく。
「ほら、少し白い液体が浸みているでしょ」
恵子は乳首を触ると少し液体が浸みてきている。マドカはそれを確認すると乳首を口に含んだ。皆は恵子の豊満なバストと素直に吸い始めたマドカの姿に釘付けになる。
「出始めたででしょ」
「うん、出ているよ。おいしいよ」
「量はそんなには出ません。マドカ、今度は左側をお願いね」
「はーい」
マドカは唇に薄い白い液体を付けながら左側のおっぱいに吸いつく。恵子は右側のおっぱいを自分の手でもんでいる。
「こうして左右そろぞれ3回位かな。出てくなくなるまで吸ってもらって吸いきってもらいます」
「分りました。そういう薬があるのは分りましたから、もう止めてください」
光代は息子には見せてはいけない光景と感じて恵子に訴えるが、一也はその光景に見入っていた。
「今、申し上げました通り吸いきってもらうことが必要ですので、もう少しです」
「ママ、もう終わりみたい」
恵子の左右のおっぱいを交代で吸っていたマドカがおっぱいから口を離した。
「そうね、お終いにしましょう」
マドカはハンカチで口を拭き、恵子はブラジャを付けるとシャツを着た。光代はようやく終わった授乳にほっとした。すみれはその光景に安堵の光を感じていた。もう4カ月も続いている赤ちゃんの綾目の世話は終わりにしたい。薬の効果もないし、素直に恵子のやり方を実行して早く綾目の赤ちゃん返りを直してあげたいと思う。
「皆さま、今、未来では綾目ちゃんと一也ちゃんに保育士から母乳を授乳する保育が行われています。でもその効果は少ないのです。遺伝子の関係から実の母親の母乳が一番効果があるのです。高校生のお子様に授乳するのに抵抗があるのは十分分ります。今までの経験では長い人で直るまでに2、3年もかかったことがありました。でも実の母親の母乳を上げれば平均で約1カ月で直っています」
「1カ月ですか」
すみれは1カ月で直るのであれば父親が日本の帰る年末までには十分間に合うと思ったが、それでも踏ん切りがつかずにいる。光代は病院からの薬と、一也の赤ちゃんの世話をしてあげることで直って欲しいと思う。
「そうです、1カ月です。綾目さんはお母様の母乳を飲むことができますか」
「ええ、恥ずかしいけど、未来ではいろんな人の母乳を飲んでいるから大丈夫です」
「分りました。赤ちゃん返りのきっかけや原因は人さまざまです。今回のお二人はいろいろなストレスが原因と思われますが、他にも男性にフラレテしまって赤ちゃん返りを起こした女性や、男性が早期退職をしてから赤ちゃん返りを起こしたなどいろいろなケースがあります。最後に、赤ちゃん返りがこの方法で直った人からのお礼状をお読みになってください。お礼状はたくさんいただいていますけど、男性の場合と女性の場合とそれぞれ1通ずつあります」
 
ケース1:
 
桜間恵子様
 
息子の赤ちゃん返りを直していただき本当にありがとうございました。息子は大学に通うまでは平穏無事の生活でしたが、大学3年生からの就活で100社以上受けても内定が出なかったのですが、ようやく卒業間際に決まりました。ところが通勤し始めてから様子がおかしくなりました。朝は早いし夜も遅い勤務で調べてみたらその企業はブラック企業でした。1カ月後に退職したのは良かったのですが、次の朝はオネショをしていました。その後は赤ちゃんのようにお漏らしをしてはミルクを飲む生活でした。そんな生活を切り抜けられたのも桜間様のおけがです。1カ月の間、成人になった息子に母乳を授乳するのは恥ずかしかったですけど、おむつの交換よりは愛情を捧げられた時間だったと思います。
息子は今、正社員として働いております。これも桜間様のおかげと感謝しております。
ありがとうございました。
 敬具
 
ケース2:
 
桜間恵子様
 
お世話になりました。赤ちゃん返りが直った娘は元気に大学に通っています。勉強勉強でようやく大学へ入った1カ月後にオネショが始まりました。最初は五月病だろうと思っていたのですが、ミルクを飲んではお漏らしをしておむつを替えてやる生活には本当に疲れました。寝る時はおしゃぶりを咥えながら寝息を立てて散る娘を見ながら絶望していた半年でした。でも桜間様から教えていただいた方法でそれまでが嘘のように1カ月で直りました。娘は今、保育士になる決意をしたようで学部を替えて勉強しています。
本当にありがとうございました。
   敬具
 
−−−
 
いづれのお礼状にも日付と送り主は消されていた。皆は交代でその2通のお礼状読んだ。すみれは涙を流しながら2回読んだ。光代はそういうものかと疑いつつもその事実を受け入れようとした。綾目は自分と同世代の女性に起きたことに親密感を覚えた。一也は近い将来に起きてもおかしくないような同世代の事実に身が引き締まった感じがした。
手紙を読み終わって考え込んでいたすみれは綾目の手を握ると綾目を見つめて頷いた。綾目は母が決めたのだと思った。綾目も頷いた。
 

 

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