20.

 
すみれは唾を飲み込み小さく息を吸うと恵子に申し出た。
「桜間さん、私はやります。綾目が赤ちゃんのようになってしまってからもう4か月になります。早く綾目の赤ちゃん返りを直したいので、私たちに教えてください。綾目もいいわね」
「分かった。私からもお願いします」
「そう、良かったわ。それで一也さんとお母様の光代さんはどうされますか」
光代だけが不安を隠しきれない表情で黙っている。一也は恵子の世話になりたいが母親が積極的でない以上仕方ない。
「私は現代医学を信じて一也の世話をします」
光代はこの方法を受け入れることが出来なかった。でもどうしていいか分らない。せめて一也がもう2度とおむつかぶれにならないようにおむつの世話とミルクを飲ませることで直ることを信じたい。現代医学の薬も飲んでいるし、生活指導やトレーニングもしているではないか。まずそれを継続することが大事と思う。
「分かりました。いつでも仰ってくださいね。お手伝いしますから。それからこれ以上悪化はしないと思いますが」
「悪化すると一也はどうなってしまうのですか?」
光代は悪化などどんな状態なのか想像もつかなかった。もうこれ以上の状態は考えられなかった。
「一也さんは現在は高校へ通っていますけど、もし赤ちゃん返りが悪化してしまうと、高校へ通うことはできなくなります。今以上にミルクを欲しがり、ミルクを飲んでは寝てしまうでしょう」
「そんな事が起きたら。。。」
光代は愕然としたが、今は決めることが出来なかった。
「そういう風にならないように未来では一也さんに母乳を授乳しているのですよ。ですからご検討をお願いします」
恵子は光代が決めてくれる信じていたが、それには時間がかかりそうだ。
「それでは樹賀さん、綾目ちゃんはベビー服に着替える必要がありますので、樹賀さんの自宅に行きましょう」
「はい、分かりました」
「さきほど申し上げたように未来からもう1人来ます。お母様が母乳を授乳できるかどうかの健康診断です。血液検査もありますが、すぐに終わります。樹賀さんの家に着く頃には家の前で待っていることでしょう。それでは参りましょう」
 
光代はこれでよかったのだろうかと少し後悔していた。でも現代医学と私の愛情で一也の赤ちゃん返りを治すのだと心に決めていた。樹賀さんたちをそんな思いにふけながら見送った。
 
 
綾目の家の前には30代位の女性が立っていた。眼鏡をかけた長い髪が印象的だ。
「お待たせしました。桜間です。こちらが診察対象の樹賀さんです」
「樹賀 すみれです。こちらは娘の綾目です」
「医師の鈴海です。よろしくお願いします」
「さ、どうぞ、家に入ってください」
 
すみれは自宅で鈴海の診察を受けた。血液検査も少し血を取られて小さな箱の中に入れられると聴診器での診察が終わる頃には結果が出ていた。
「特に問題はないようですね。桜間から事前に条件の説明があったと思いますが、それも問題ないです」
「あの、副作用はないですよね」
「ええ、全くないです。薬とは言っても母乳を出しやすくするサプリメントですから。後はメンタル面ですね。高校生のお子様に母乳を授乳するという行為に抵抗を持つ方は多いものですから」
「正直、抵抗はありますが、1カ月で直るのなら我慢できると思います」
「あくまで過去のデータで平均1カ月です。きちんと授乳するという前提での経験値ですので、保障するわけではありませんので、ご注意くださいね」
「分りました」
「では、桜間から授乳方法について説明を聞いてください。私はこれで失礼しますので」
恵子は綾目に恥ずかしがらないで未来での授乳と同じように吸えばいいことを丁寧に説明していた。医師がリビングの部屋を通りかかった。
「桜間さん、お母様は問題ありません。後はあなたの方から授乳方法について説明してください。それでは私はこれで帰ります」
「ありがとうございました」
女性の医師は淡々と玄関に向かうとドアを閉めて出て行った。皆はリビングに集まった。
「樹賀さん、では始めましょう。まずは錠剤を2つ飲んでくださいね。それとマドカは綾目さんを着替えさせてくれる」
「はーい」
「紙おむつから布おむつに替えてね。後はいつもの通りね」
恵子はすみれに薬のことを説明して1週間分を渡した。薬は1日3回だ。
「これは今飲まれる分です。今日はその後、夕食後と寝る前に授乳してください。明日以降、高校へ通う日は朝と夕食後と寝る前です。1日3回は授乳してくださいね。高校が休みのときは朝、昼、夕食後です。また1週間後に様子を見に来ます。そして次の薬を渡しますので」
マドカは綾目の服を脱がして紙おむつも外していた。布おむつを当てるとシャツを着させてロンパースを着させて最後に涎かけと帽子をかぶせた。
「可愛い赤ちゃんの姿になったわね。授乳するときはまずは身なりです。紙おむつではだめです。優しくぬくもりのある布おむつに包まれて母乳を飲むことが大事ですよ。朝は忙しくて大変でしょうけど頑張ってくださいね」
「あの、少し張ってきたような気がします」
「そうね、そろそろかな。お母様はシャツを脱いでブラジャも外してください」
「ずらすだけではいけませんか」
「だめです。両方のオッパイを綾目さんの目に焼き付けて口から乳首を吸わせます。その授乳の仕方も大事なのです」
すみれは言われた通りにシャツを脱ぎブラジャも外した。いつもより張っているのが分るバストを皆の前に出すと思わず両手で覆ってしまう。
「綾目さんは膝枕の上に横になってください」
綾目は目の前に母のバストを見ると厳かな気分になる。未来でいろんな人のバストを見たのとは違う何かがそこにはあった。私が生まれた頃に吸ったであろう母のオッパイが目の前にある。
「右側から吸ってみてください」
綾目は乳首をそっと口に含んで吸ってみると僅かだが液体が浸みてくるのが分った。でも未来で吸ったような量ではない。
「お母様はバストを揉んでみてください。そして綾目さんの頭を押さえて少しバストに近づけてください」
すみれは言われた通りにするとバストの張りがより強くなってきた。綾目も少し強く吸ってみる。
「あ、出たよ」
綾目は母乳を吸いこんで飲みこむことができたことを報告する。
「そ、その調子よ。もし出が悪くなったら左側に代わってください」
綾目は未来で飲んでいる母乳と同じはずなのに匂いも味も何かが違うのを感じていた。実の母の母乳だからだろうか。夢中になって右側、左側と吸っていると段々とその量が少なくなってきた。
「もう、お終いみたい」
「出なくなるまで吸ってからお終いにしてください。お母様は絞るようにして最後まで飲ませてあげてくださいね。残るとよくありませんから」
「はい」
それからしばらくして授乳はお終いになった。綾目は安心した表情になり、すみれは我が子に授乳した満足感に浸っていた。
「必ず、よくなりますからね。1日3回の授乳は守ってくださいね。それでは1週間後にまた来ます。お大事に」
 
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