303エイト

4.

「ただいま」
マドカが夕飯の時間になってようやく帰ってきた。夕飯の支度をそろそろ終えようとするママが出迎えた。
「お帰り、塾に行っていたのね」
「そうよ。友達の遊んでいたら遅くなってしまってそのまま塾に行ったの」
「そう、分かった。じゃ、夕飯にしましょう」
ママの手で綾目はお尻におむつ被れ用に軟膏をたっぷりと塗られて新しいおむつも当てられていた。綾目はようやくお尻の痛さと痒さから少し開放されて安心していた。
綾目はテーブルの上に置かれた椅子に座ってママもマドカも夕飯を食べ始めた。
「マドカ、今日は綾目ちゃんは赤ちゃんのようになってしまったのよ」
「綾目ちゃんは体が小さいから十分赤ちゃんだよね」
綾目は嫌な予感がした。おむつにお漏らしをしてそのまま長時間当てたままだったのでおむつ被れになってしまったことはマドカはまだ知らないし、知られたくなかった。それがママからコクられそうだった。
「それはそうよね。その上にね今日もお漏らししてねお尻が真っ赤かのおむつ被れになってしまったのよ」
「嫌だ、言わないで」
綾目は聞きたくないと耳をふさぐがママは一部始終をマドカに説明するつもりだ。
「お漏らしは今までにもあったけどおむつ被れにもなっちゃったの。綾目ちゃんは赤ちゃんね」
「違います。トイレも一人でできるけど行けないから、仕方ないのに」
綾目は仕方のないことを盛んに説明するが体の大きなマドカとそのママは同情ししようとしない。
「そうなのよ。一人では何もできない赤ちゃんだからね、おむつをしたまま保育園で預かってもらおうと思うの。マドカはどう思う?」
「賛成よ。すすれば今日みたいに塾に直接行く場合でも心配いらないし」
「わかった。じゃ、そうしよう、綾目ちゃんもそれでいいわよね」
綾目はそんなことは受け入れない。この時代の保育園とは綾目の時代の保育園と同じだと思う。それにおむつをしたままなんて許せない。
「嫌です」
綾目はむっとした顔になって首を振った。だが、そんな表情はマドカとママに受け入れてもらえるはずがない。
「でもお家に一人でいるより、お友達と一緒のほうが寂しくないと思うのよ。それにお漏らししたらおむつを替えてもらえるし、お腹が減ったらミルクも哺乳瓶で飲ませてくれるわよ。保育園の方が絶対いいでしょ。だから行きましょうね」
「私にはおむつも哺乳瓶も必要ないの、だから大丈夫なの」
確かにママが言うことは正しいが、綾目は大人の体をした高校生と主張しても誰も受け入れてくれない。身長が小さくなってしまったこの時代では仕方ないのだろうか。綾目はこの時代に生きていくためにはこのことを受け入れなくてはいけないのだろうか。
「困った子ね、でも綾目ちゃんはお利口さんだから行けるわよね。お家でお腹すかせているのもかわいそうだし、おむつが汚れてまたおむつ被れになっちゃうのは嫌でしょ」
「それはそうですけど」
「じゃ、決まりね。綾目ちゃんは保育園に行くのよ」
綾目はもうどうにでもなるしかないと決めると涙を浮かべながら首を縦に振っていた。もうおむつ被れになるのは嫌だし、小さな鉄で囲まれた鳥籠の中に1日いるのも嫌。それに比べれば保育園に行ったほうがいいかもしれない。
「赤ちゃんのお洋服と保育園の制服のスモックを買いましょうね」
ママは、天井に向かって手で何かの合図をすると、買い物、と言った。するとママが指差した床に天井から光が差し込んだ。するとベビー服の候補が床にいくつか表示された。
綾目は見たことのない光景にあっけにとられているとママが心配そうに言う。
「今の時代はこうしてショッピングができるのよ。洋服なら試着もできるわよ。試着といっても実際に着るわけじゃなくて、着ている姿をその場で見ることができるのよ。綾目ちゃんの住んでいる頃だとコンピュータがあって画面上でいろいろ表示できてネットショッピングができる時代じゃないかしら。その内、コンピュータがどんどん小さくなって体に身につけられるようになっていくのよ。でも今は違うの。家の中にコンピュータがあってどこにでも表示できるし服なら体に合わせて調整できるのよ」
ママは昔習ったコンピュータの歴史を思い出して綾目に説明する。綾目は自分の住んでい居た家にはパソコンやタブレットがあることを思い出していた。そのうち眼鏡に組み込まれるとか、時計に組み込まれるなどとニュースが報道していたのを思い出す。でも今、目の前にある光景はなんと斬新なことだろう。
ママは床に表示された可愛いピンクのロンパースを指差した。
「これ候補にしましょう」
ママは何も付けていない指を空中で右にスライドさせるとベビー服の候補が次々に表示されていく。
「ママ、これ可愛い」
マドカがウサギさんの絵が入った可愛いロンパースを指差した。
「そうね、これも良いわね」
ママはそのロンパースを指差したままもう一度指差すとそのロンパースも候補箱の中に入っていく様子が見えた。
「綾目さんこれは試着してみましょう。こっちに来てくれる」
ママは候補箱から再びウサギちゃんのロンパースを表示させると手をグーに握ってそのロンパースの方向を指した。するとそのロンパースが空間に浮かんでいるように表示された。
「綾目さん、ほら、このロンパースの所にきて、試着してみましょう」
綾目は恐る恐るその浮かんでいるロンパースの場所に行ってみると光が2、3回点滅した。次の瞬間、綾目の体にフィットしたロンパース姿があった。
「良いわ、可愛いわ。サイズは綾目さんの体に自動的に調整してくれるのよ。鏡で見てみてね」
マドカがスタンドミラーを持ってくるとそこにはロンパースを着ている綾目の姿が映った。
「キャー」
綾目は着てもいないロンパースが自分にフィットして着ているように見えることに驚いた。
「驚かなくても大丈夫よ。こうして試着した感じを確かめてから買うことができるのよ。これ、似合うから買いましょうね。少し動いて見てくれる。右に回ったり、後を向いてもそのロンパースを着ているところを写してくれるのよ」
綾目は振りかえってまたスタンドミラーを見てみるとロンパースを着た自分の後ろ姿が写しだされると、恥ずかしくなって思わずそのロンパースが映し出されている場所が動いてしまった。すると光もそのまま綾目を追いかけてきた。ロンパースを着たまま移動する姿がそこにあった。
「綾目さん、大丈夫よ。どこまでも追いかけていくのよ。でも大丈夫、この試着は終わりにしましょう」
ママは手をチョキにすると上下に振った。すると綾目を追いかけてロンパース姿を写していた光が消えた。
「後は、保育園の制服のピンクのスモックと肌着を数枚買っておかなきゃね」
ママはスモックとベビー用肌着を指差すと数枚を候補に入れて行く。靴下に赤ちゃん帽に涎かけに立て続けに今度はカートに入れて行く。
「ママ、後、おむつと哺乳瓶がないよ」
マドカが赤ちゃん育児に必要なものをママに指摘した。ママもマドカを育てた時を思い出しながら買い物を続ける。
「そうね、マドカが使っていた物はリサイクルで出してしまったものね。おむつは布おむつとおむつカバーと、それに哺乳瓶ね」
ママがそれらを表示していくとマドカと相談しながらカートに入れていく。綾目は今当てているおむつも紙おむつなので紙おむつと思っていたら可愛い布おむつにおむつカバーが次々と表示されていくのにびっくりしていた。
「あ、あの紙おむつのほうが」
綾目は紙おむつのほうが吸収性がいいと聞いているので、いやいやでもあてられるのら紙おむつの方がいいと思って不思議になって聞いてみた。
「綾目さん、今は原則使い捨ては禁止なのよ。あなたの住んでいた頃は紙おむつも使い捨てでしょうけど、今は違うの」
綾目は初めて見る布おむつにびっくりしながら、今当てられている紙おむつで十分と思うしそのほうが経験もあるしと思う。布おむつは綾目にしてみれば高級品に見えたのだ。
「綾目さん、今綾目さんが当てている紙おむつは人形用でしょ。お人形さんはお漏らししないから紙おむつでもいいのですけど、本当にお漏らししてしまう赤ちゃんにはリサイクルができる布おむつが義務付けられているのよ。大丈夫よ紙おむつよりずっと優しいから」
「で、でも」
綾目は紙おむつでも恥ずかしいのに見たこともない布おむつを当てられるのが恥ずかしかったし、不安だった。赤ちゃんのするおむつといえば紙おむつしかない時代には考えられなかった。
「地球の資源は限られているからとにかく使い捨ては原則禁止なのよ。分かってね、綾目ちゃん」
「私だって布おむつで育ててもらったんだよね、ママ」
おぼろげながらにも布おむつにお漏らししてママに替えてもらった経験を覚えているマドカはママを援護する。
「そうよね、マドカちゃんも赤ちゃんの時使っていたわよね。布おむつにお漏らしすると気持ち悪いからマドカちゃんは早めにおむつを卒業できたのよね」
ママは昔を思い出しながらマドカをからかうように言う。マドカは赤ちゃんの時は布おむつを当てるのが当たり前という態度をとる。
「だから、綾目ちゃんも布おむつを当てるのよね」
「そうね」
綾目が反論するまでもなく、ママとマドカは気があって可愛い布おむつと可愛いおむつカバーもカートに入れていく。ママはカートを開いて確認するとさらに粉ミルクとおしゃぶりも追加してようやく決済に移った。簡単な確認で決済が終わるとママは綾目に言った。
「これでお買い物はおしまい。明日の朝には光に乗ってテレポで送られて来るわ」
綾目はちんぷんかんぷんの言葉に悩んだ。綾目が住んでいた街にはスイカ、パスモやナナコなど、さらにスマホなどカタカナ3文字の物があったが、テレポは聞いたことがなかった。
「あの、テレポって何かICカードみたいなものですか?」
「綾目ちゃん、テレポはね、テレポーテーションよ。昔は念力のように思われていたけど、物質の瞬間移動のことよ。生きている生命はまだテレポできないけど、物質ならほとんどテレポできるようになっているのよ」
綾目は今ここにいる世界がまるで同じ地球とは思えなくなってきた。最初ここに来たときから見たり聞いたり経験するものすべてが便利で、スマート、品があるように思えた。
「すごいですね」

次の日の朝。
「綾目ちゃん、起きてね、昨日買ったものが届いたわよ。早速着てね。保育園に送っていくから」
綾目は昨日買った物がもう届いたという事に一気に目が覚めた。いきなりパジャマを脱がされ紙おむつを外されると、布おむつセットの上に寝かされた。
「ほーら、お尻が優しい感じでしょ」
綾目は紙おむつとは違う優しい感じをお尻と股に感じると思わずよかった、と思う。次に布おむつが股からお腹に回されてそのおむつをおむつカバーが包んだ。肌着を着せられてロンパースを着させられると靴下も履かされた。
「最後にスモックかな」
綾目はスモックに両手を差し入れるとママが背中でボタンをはめていく。最後に涎掛けまで綾目に当てるとママは出かける準備をした。
「マドカ、保育園まで一緒に行ってくれるかな。綾目ちゃんを見ていてほしいの。車のチャイルドシートを買うのを忘れていたわ」
「うん、いいよ。保育園に綾目ちゃんを預けたら小学校まで送っていってね」
「ええ、いいわよ」
ママが綾目を抱っこしながら庭に置いてある車に向かった。後ろのドアを開けると綾目をシートの上に寝かせた。次にマドカも後ろのドアから入って綾目の手をそっと手を握った。ママは運転的に乗るとエンジンをかけた。信じられないくらい静かなエンジン音だ。
「じゃ、マドカちゃん、綾目チャンを保育園に連れて行きましょう」
「はーい」
マドカはいつものことと車の中で普通に綾目を押さえていたが、次の瞬間窓に映る景色に綾目は思わずシートの上に立ち上がった。まるで小さな子供がするようにシートの上に立つと車の窓から見る景色に驚いていた。マドカは心配になって綾目の体を思わず支えた。
「マドカちゃん、この車飛んでいるの?」
「そうよ、車は空を飛ぶんだよ」
綾目は目を疑った。そこには綾目が住んで居た時と同じような住宅街の風景があった。でも何かが違う。体を乗り出して車の窓の外を見るとそこには普通の2階建ての家々が並んでいる。でも道路がない、信号がない、そして電柱もなく電気や電話線などのケーブルが一切ないのだ。同じようでいてやっぱり違う。その家々も少し大きく庭も広い緑も多い。ただ、怖いのは同じように空を飛んでいる車が時々お互いを避けるようにしてすれ違うことだ。でも車同士がぶつかるような雰囲気は一切ない。事前に避けるように方向変換していく空飛ぶ車は余裕を持ってでもかなりのスピードで飛んでいるようだ。
そんな光景を見ている間に車は少し大きめの建物の庭に降り立った。看板がありそこにはレインボウ保育園と書かれている。
静かに車がその庭に降りるとママは後ろの席のドアを空け、綾目を抱き抱えた。
「マドカ、少し待っていてね。すぐに小学校へ送っていくから」
「はーい」
マドカはいつものことのように返事をすると車から去っていく綾目を抱いたママに手を振っている。
「おはようございます。桜間です。赤ちゃんを預けに来ました」
「おはようございます、桜間さん。あら、可愛い赤ちゃんですね」
「では今日は1日よろしくお願いします」
ママは綾目を保育園の先生に預けると手を振りながら車に戻っていった。
「綾目ちゃん、今日は1日よろしくお願いしますね。お友達の赤ちゃんもすぐにできると思いますからよろしくね。あらあらもう、おむつが汚れているのかな。きれいにしたら哺乳瓶からたくさんミルクを飲んでくださいね」
綾目はその言葉で自分のお漏らしに気づいた。朝起きてからおしっこもウンチもしないまま、布おむつを当てられて車に乗せられた。車から見る見たこともない光景にびっくりして綾目は思わずおむつを汚していたのだった。我慢することもなく、ただただ宙に浮く車からの景色にびっくりしてお漏らしをしていたのだ。しかもその自覚もなかった。ただただ優しく包まれた布おむつの中に自然に漏らしていたのだ。赤ちゃんのように。
綾目は横に寝かせられると早速おむつ交換をさせられた。綾目はおむつカバーを外されて布おむつを外されると、保育園の若い先生は綾目の両足をいとも簡単に持ち上げた。綾目はおしっこもウンチも両方漏らしていた。
先生は替えの布おむつを綾目のお尻の下に入れ込み、汚れたおむつを包んで横にするとお尻と股をきれいにしていく。きれいにすると白いシッカロールをたくさん付けられた。このシッカロールの匂いは綾目の時代と何も変わっていないようだ。おむつカバーを当てて、ロンパースの股のホックをはめてスモックを降ろすと可愛い保育園の制服を着た赤ちゃんになった。
「いい子でおむつを替えれたわね。さ、じゃ、次はミルクを飲みましょうね」
先生はミルクの入った哺乳瓶の乳首を綾目の口に入れ、綾目の両手で哺乳瓶を押さえるようにした。綾目は朝から何も食べていないで、さらに出すものは全て出した後だったから空腹だ。綾目は無我夢中で両手で哺乳瓶を押さえながら乳首からミルクを飲むしかなかった。

おとなの赤ちゃん返り
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