303エイト

7.

数日の間、森君と沙希とほのかは学校が終わると綾目の家に行き、4人でおしゃべりもしながら勉強をした。そんな光景を見て安心した綾目の母親は少なくしていたパートの時間を多くし始めていた。それでも綾目への哺乳瓶からの授乳とおむつ替えはこまめにしてあげていた。友達と一緒にいるときに口寂しくならないように事前にミルクを飲まし、外出する前には綾目のおむつを交換して友達と一緒にいるときにおむつを汚さないようにしていた。
沙希とほのかは少しずつ綾目との時間を減らすようになっていた。森君は几帳面に綾目の家に通っていた。そんなある日から綾目と森君は2人きりだけで綾目の部屋で時間を過ごすことが多くなっていた。
「今日はこの位で勉強はお終いにしよう」
「そうですね。いつもありがとう」
「大丈夫です。君と一緒に居られるなら僕もうれしいよ」
「今日は、どうしてこんな赤ちゃんのようになってしまったか、聞いてくれますか」
「うん、是非。夢を見てからということは聞いたけど、どんな夢だったの」
綾目は必死になって大きな世界での事を思い出しながら森君に話した。森君は疑いもしないで綾目の話を聞いてあげて、本気になって信じていた。大きな世界に行ってしまったと思ったら、実は綾目が小さくなっていたこと、そしてその大きな世界では赤ちゃん同様に扱われて赤ちゃんのようになってしまうと現実の世界で同じ事が起きてしまったこと。そして一見同じように見えた大きな世界では何もかも技術進歩ですごい事が普通のことになっていたことなど。そんなSFのような話を森君は親身になって聞いてくれた。綾目は何もかも話せるのは森君だけだと思いこむようになっていた。
話に夢中になっていると時間は以外に進むのが早い。綾目は気がつけばおしっこを我慢していた。
「あの、今日はこれくらいで」
綾目は森君におむつを汚すところを見て欲しくないので、森君を帰そうとした。
「そ、そうだね」
森君も思わず腕時計を見て帰る時間と判断したが、そっと綾目に近づくと綾目の肩を抱いた。綾目は思わず後ずさりしたが、森君は力強く綾目を抱きしめた。
「綾目さん、好きだよ」
森君が綾目の唇を奪った。森君から離れようとする綾目をしっかりを抱いて。
「こんな私だから駄目です」
「そんなことないよ。可愛い赤ちゃんの君は可愛いよ、きれいだよ」
森君はもう一度綾目とキスをすると今度は綾目も森君とのキスを受け入れることができた。綾目の初キスだった。
「今日はこれで、帰るね。また、明日来るよ」
「うん、さよなら」
森君を見送ると綾目は立ったままでおむつにおしっこを漏らし始めていた。森君が玄関を開けて帰ろうとすると綾目の母親が同時に帰ってきた。母親は今日は少し遅くなってしまったので綾目の事が心配で仕方なかった。
「あら、森君、いつもありがとう」
「いえ、大丈夫です。今日はこれで帰ります」

綾目は初キスで胸が一杯で放心状態のように椅子に座っていた。放心状態の中で綾目は無意識におむつを汚していた。
「綾目、ただいま、今、森君が帰ったわよ」
「うん、そうだね」
「そう、今日は少し遅くなってしまったの。ごめんね、おむつ大丈夫かな」
母親は綾目に近づいてロンパースから手を入れておむつカバーの中に手を入れた。まだ少し暖かい綾目のおしっこに気付くとすぐにおむつ替えの支度を始めた。
「そうそう、お隣の桜間さんだけど、ベビー服のお礼にお菓子を持って行ったけどこのところ何時も留守なのよ。綾目、何か知ってる?」
「あれから会っていないけど」
「そう、おかしいわね」
綾目はマドカとそのママは未来からタイムトラベルで来ていたことは内緒にしていた。綾目と会えたことで未来に帰ったのだろうか。最近は未来に行くこともほとんどなくなり綾目はあの事はもう忘れようとしていた。
「綾目、まだ、おしっこは暖かいから森君が帰った後でお漏らししたのよね」
「そう、間に合ったの」
「良かったわね。森君の前でお漏らしは恥ずかしいものね」
「うん、1人のときか、母さんの前なら大丈夫だけどね」
ベッドに横たわり、おむつ交換を母親にゆだねながら、綾目は睡魔に襲われた。森君との2人だけの時間にいつもより緊張していたのだろう、そして森君の前ではお漏らしは駄目とばかりに我慢していたこと、そして森君との別れ際に突然に奪われた唇の事、その事が綾目を睡魔に押し込んでいた。遅く帰って来た母親に汚れたおむつ交換をゆだねて安心すると綾目はもう寝息を立てていた。

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母親の優しさに委ねながら寝てしまったのに綾目は下半身が冷たくなっていることで目が覚めた。そこは未来で連れて行かれた保育園だった。天井や壁に可愛らしい絵柄に愛らしい動物が飾られている。目の前にはベビーベッドの柵がありベビーベッドの中で横になって寝ていたことを知る。ベビーベッドの柵から数人の保育士の姿が見える。女性だけという先入観は崩れそこには男性の姿も見える。周りにはベビーベッドが多く置いてあり、そこにはそれぞれ赤ちゃんが寝ているようだ。そんな光景を受け入れて綾目はまた冷たい下半身に気付くと思わず泣きだした。それは本当の赤ちゃんのようにオギャオギャーというように自分にも聞こえ、びっくりしながらも冷たいおむつを嫌がって綾目は泣いた。
保育士の一人がすぐに気付いて綾目の近くに来てくれたようだ。ベビーベッドの柵を外し、おむつをチェックしているのが綾目に分った。早く交換して欲しい綾目は催促するようにさらに泣いた。
「綾目ちゃん、お漏らしだね、おむつ替えるからね」
その声に綾目はびっくりした。男性の声だからだ。目を開けて見れば目の前に薄いブルーの制服を着た背の高い保育士が綾目のおむつ替えの準備を始めていた。綾目は今までのおむつ替えは全て女性がしてくれたことを今さらながら思い出す。だが、この未来の世界では保育士も男性がいるのは当たり前なのだろう。
男性におむつ替えをされるといことは綾目の女性自身の大切なところも異性に見られてしまうという恥ずかしさに襲われると綾目はさらに泣き、暴れて抵抗しようとした。ベッドの柵を手で叩き、お尻でマットレスを叩き、両足をバタバタして抵抗した。男性に大切なところを見られるのは駄目とさらに大きな声で泣きだした。
綾目のおむつ替えの準備をしていた保育士は隅の方にいる他の保育士に向かって、ヘルプ、と言うとまたよくあることとばかりに淡々と準備を続けていく。
綾目はそんな光景を見ながら騒いでいたが、さらにびっくりした。応援に駆けつけてきた保育士はまた男性だった。同じブルーの制服を着ている保育士は今度は中肉中背の男性だった。その保育士は綾目のベビーベッドの頭側の柵を外すと綾目の両手を押さえた。さらにもう一人の男性の保育士が駆け付けると綾目の両足を押さえた。最初に来てくれた保育士はありがとうと言うと、綾目のおむつカバーを外し始めた。嫌、駄目という言葉が赤ん坊の泣き声になってしまう。それでも男性におむつ替えをされて大切なところを見られてしまうという恥ずかしさから綾目は抵抗するが、男性2人に押さえられては身動きもできない。綾目は涙を流しながら泣き声を上げながらおむつ交換をさせられた。汚れたおむつが外され、お尻拭きできれいにされてシッカロールを付けられた。その間も男性の目は綾目の大切なところを見ているという恥ずかしさと戦いながら綾目はさらに泣いた。シッカロールを付けられて替えのおむつを当てらると綾目はようやく落ち着いてきた。冷たい汚れたおむつから暖かい優しい布おむつに包まれたことと、男性の視線がおむつで隠れたことに安心して綾目は泣くのを止めて、暴れるのも止めた。
すると暖かいミルクの匂いと共に優しい哺乳瓶の乳首が口の中に入ってきた。「お腹も空いていたのだろう」
男性の保育士の声と共に哺乳瓶の乳首が綾目の口に入れられて、哺乳瓶を持ってくれていた。綾目はおむつ交換をしてくれた安心から思わず力一杯ミルクを飲み始めていた。男性の保育士たちは、ベビーベットの柵を元通りにすると、授乳している保育士を残して何もなかったように持ち場に帰っていった。

綾目が哺乳瓶からミルクを飲み終えると、さっきの背の高い男性の保育士が近寄ってきた。綾目は大切なところを見られてしまったその男性に恥ずかしさを覚えるが、保育士は何もなかったように綾目に近づいた。
「ママとお姉さんが迎えに来ましたよ」
綾目には兄弟はいない。だが、マドカとママがベビーベッドまで迎えに来ると小学生のマドカがお姉さんと思われていることを理解した。
「綾目ちゃん、お家に帰りましょうね。いい子にしていたかしら」
「少し前にお漏らしをしておむつ替えをしたのですが、少し暴れまして3人でおむつ替えをさせていただきました。でもおむつ交換をした後はミルクをたっぷりと飲むいい赤ちゃんでしたよ」
「御迷惑をおかけしました」
「いえ、とんでもありません。機嫌の悪い時もあります。それが私たちの仕事ですから安心してください」
「はい、お世話になりました。また明日もよろしくお願いします」
「お待ちしています」

綾目はママに抱かれながら保育園を後にすると空飛ぶ車に乗って帰途に付く。最初に車に乗ったときは車が空を飛んでいることにびっくりしたが、今度はママが運転していないことに気付いた。運転席には座っているママだが、運転している様子がない。それでも車は空を飛んで家に向かっているようだ。後部座席にびっくりしながら綾目は話しかけた。
「あの、運転はしないのですか」
「ええ、自動運転よ。でも安全のために運転席に座って確認することが義務付けられているのよ」
「自動運転ですか」
綾目は最近の車は自動で障害物をよけたり、停止したり、無人運転のテストのニュースを見た事を思い出した。それがこの未来の世界では車が空を飛びしかも自動運転なのだ。空から見える風景はそれほど変わらないのにすごい技術にびっくりする。
「あの、質問があるのですけど」
「ええ、何でも聞いてくださいね。あなたの時代とはいろいろと違うでしょうから」
「あの、保育士は男性もいるのですか」
男性におむつ替えをさせられたショックから落ち着いてきた綾目は素直にママに聴いて見た。
「ええ、そうよ、保育士だけじゃなくていろんな仕事に男性も女性も平等に働いているわよ」
「そうなんですか」
「それがどうかしたのかしら」
「男性の看護士は初めてだったから」
「そうだったの。でも別におかしなことじゃないのよ。それが普通なのよ」
マドカのママは平然と当たり前という表情で答える。そしてママには分かって分かっていた。赤ちゃん同様の綾目だが、心は十代のままだ。それが赤ちゃんの格好で女性の大切な場所をおむつ替えという理由であっても見られてしまったショックは分かる。だが、どうしようもないことも綾目は分かってくれていると信じている。
「ところで、綾目ちゃん久しぶりね。こちらに来るのも」
「ええ、そうですね。タイムトラベルは終わったのですね」
「そうよ、綾目ちゃんが赤ちゃんを受け入れてくれて、周囲の人にも受け入れてくれたようだから安心して帰ってきたのよ」
「そうだったんですか」
「そうよ、もう少しよ。今回も男性におむつ替えされたようにこちらに来るたびに新しい経験を積んでいるでしょう。もう少しよ。がんばってね」
綾目は何をがんばるのかよく分からないまま、空飛ぶ車からの風景を眺めていた。

 

おとなの赤ちゃん返り
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