おとなの赤ちゃん返り

赤ちゃん返りになった僕は週末になるとおむつを当ててお漏らしをしてミルクを飲んでいた。だが、だんだんと恥ずかしいのと面倒くささからもういいや、と気持ちが大きくなっていた。3回に1回は週末の赤ちゃん返りを止めたのが、さらに時が経つと2回に1回は止めるようになっていた。そしてその時が経つのと同時に小学生の卒業式が近づいてきた。さらに特に受験勉強もしないまま公立の中学生の入学式も近づいてきた。黒い制服を買ったり、なんだかんだと準備をしていると赤ちゃん返りの欲望はだんだんと小さくなっていた。
そんな週末に、今度は母さんから言ってきた。それまでは赤ちゃん返りのおむつを僕が止めると言っても何の不思議もなく止めてくれていたが、今度は母さんが言ってきた。
「もう、おむつは要らないわね。赤ちゃん返りは治ったわよ」
「え、そうなの」
突然に言われて寂しいような、けれどうれしいような複雑な気持ちで僕はその日に母さんとの赤ちゃん返りを終わりにした。
それ以後、中学生、高校生となり母さんとの赤ちゃん返りはしていない。だが、どうしようもなく落ち込んだり、さみしい時、母さんに悪いなと思いつつ布団の中でもぞもぞとしていた。冬には毛布、毛布がないときには寝巻のズボンを使っておむつごっこを始めていた。
赤ちゃん返りは治ったように思う。でも完治はしていないようだ。あの日の光景は忘れられずに、どうしようもないときだけ、僕は布団の中だけで赤ちゃんに返っていた。
また、もっと重症的に再発したらどうしよう、そんな不安と戦いながら、いろいろと想像してみるが、答えは見つからない。だから重症にならないようにするために思い出したように布団の中で短い時間だけ、赤ちゃんのようになってしまう。
偽りのおむつを当てておしゃぶりを吸いながら男の欲望を果たし続けている。いつか新しい若い母さんが見つかるだろうか。いや新しい若い母さんは要らないのだろうか。その答えを得るためにときどき布団の中でもぞもぞとしている。

終わり

おとなの赤ちゃん返り
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