10.秋の変化
 
暑い夏も過ぎ、10月になると秋の訪れを実感する。その季節の変化と明子の気持ちの変化がだんだん大きくなっていた。夏の終わりごろから明子の部屋で小さなファッションショーをやっていると、その最中に明子の携帯に電話がよく入るようになっていた。電話は明らかに女性の友達からという雰囲気ではなく、どうも元彼のように感じられた。和也は不審に思いながらも電話が終わるのを待った。そんなことがあってから明子の週に一度のお泊りは2週間に一度の割合になり、今日はようやく3週間ぶりのお泊りの日だった。
「和也、もうファッションショーは止めようか」
「え、どうかしたの」
「何か、もう飽きてきちゃったし、和也は赤ちゃんではなく女装趣味なのかな?なんて思うのよ」
「元々君が君の古着を俺に着させようというところから始まったから俺は別にいいけど」
「そうでもない雰囲気だったけどね」
「でも、プールには結局行かなかったね」
「あら、本当はやっぱりスクール水着を着てプールで泳ぎたかったのね」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「女性更衣室に入りたかったのでしょ、いやらしい」
「そうじゃないよ。君が今度スクール水着を着てプールで一緒に泳ごうというから付き合おうかなと思って」
「そうね、でも、君はおむつをしている赤ちゃんだから。おむつを穿いている子はプ―ルには入れないのよ」
「おむつは脱げばいいじゃないか」
「でもあそこのもっこりは取れないし、少しは考えたけど、痴漢行為じゃない。だからもう考えるのは止めたの」
「そうだよね。止めような」
和也はも密かにその機会を楽しみにしていたが、考えてみれば現実的ではない。気がついてみれば二人に盛り上がりの会話がもうなかった。明子は元彼からの口説きの電話を受けてから、女装趣味っぽい和也から気持ちが薄れていた。1週間に一度のお泊りの回数が少なくなったのもそのせいだ。
「和也、別れよう」
「え、別れる?」
「そう、和也はまだコンビニの店長の恵子さんと付き合っているんでしょう。店長の赤ちゃんになって私の母乳より店長のほうがいいみたいだし、店長のおむつ替えはやさしくしてくれるんでしょう」
恵子と和也の関係を盗みみていたような明子の発言に和也は明子のヤキモチかと思ったが、この数カ月の間、恵子と明子の二人と付き合っていたことも事実だ。明子には恵子にない若い魅力があり和也は両方ともうまくやってきたつもりだったが、そろそろ終わりかもしれない。そもそも明子は和也と恵子の関係をしりつつ、恵子への嫉妬から和也にテニスルックをさせてスーパーでお漏らしをさせたりということもあった。それからは明子の古着を着させられるファッションショーが多くなり、明子と付き合い始めた頃の和也を赤ちゃんにしてあげるというきっかけから外れていたのだ。和也は明子から急に持ち出された別れ話だが、そろそろかなと感じざるを得なかった。
明子の携帯が鳴った。明子は発信者を確かめるとうれしそうに電話に出た。和也は元彼からの電話だと直感すると分かれ話が身にしみた。しばらく和也は手持ち無沙汰にしていた。そんな光景を見ていた明子は不意にすぐに電話をかけ直すからと電話を切った。
「和也、元彼がこれからここに来るから」
「そうか、分かった。別れよう」
「そうしよう。和也みたいな赤ちゃんになってくれる人はめったにいないから楽しかったよ。さよなら」
「あ、じゃーな」
和也は明子の部屋をしんみりと見渡すと、玄関から出て行った。明子は携帯をもう一度手に持つと再度元彼に電話をかけていた。
和也は明子のマンションから数分ほどの恵子のコンビニに向かっていた。恵子からは和也の水曜日の残なし日にもいらっしゃいと何回も誘いをうけていたが、その度にいろいろな嘘をついて明子のマンションに泊っていたが、恵子もうすうす気づいていたはずだ。明子と別れた後だから恵子とは別れたくないと思いコンビニに入る。
「あら、和也ちゃん、どうしたの」
恵子は年上からか和也のことを和也ちゃんと呼ぶようになっていた。和也はもじもじとどうしていいか分からず恵子のレジの前に立っていた。
「今日は水曜日、もう少しで8時ね。あと5分で終わりだから、外で待っていてくれる。ね、すぐ行きますから」
「うん、じゃ、待ってる」
コンビニの店の外から恵子への部屋と上がる階段がある。そこで恵子を待っているとほどなくして恵子が現れた。恵子は目で合図してからその階段を上り玄関を開けると和也の手を取って和也を家に入れた。
「どうしたの、今日は?水曜日は残業なし日と飲み会とかいろいろ忙しい見たいね」
「いや、もう、大丈夫だ」
「今日の夕飯は?簡単なものでよかったら食べて行って」
「助かるよ、御馳走になるよ」
「そう、よかった、じゃ、リビングでゆっくりしていて。すぐに夕飯の支度をするから」
いつもなら風呂へ先に入らされ、その後はおむつを当てられ、赤ちゃんの洋服を着させられるのが今日は夕飯が先のようだ。恵子にも何か心変わりが有ったのではないかと思うと心配だった。その心配からボーとしていると恵子の手料理が運ばれてきた。恵子はいつも時間に追われているのかあまり凝った料理ではないが見た目や味は満足できる。空腹を満たして、団欒していると恵子が大事な話があると言う。
「和也ちゃん、私ね、赤ちゃんができたの」
「え、本当」
「もう3カ月だって」
「そ、そうか、おめでとう」
「生んでもいいわよね」
「もちろんさ、本当の赤ちゃんができてよかったね」
「でも、明子ちゃんは?知っているのよ」
「分かれた。さっき別れたばかりだ」
「本当、じゃ、毎週水曜日も来てくれるのね」
「あ、そうするよ」
「う、うれしい。今夜は泊れるのね。じゃ、お風呂に入ってきて」
「ああ、そうする」
「おむつとベビー服を用意して待ってるから」
「え、でも本当の赤ちゃんができたんだから」
「だから、うんと赤ちゃんの扱い方を和也で練習しなきゃね」
和也はうれしいとも感じるが、恵子の部屋ではトイレを使わせてもらえず、おむつにお漏らしをするのは少し嫌だが恵子の希望ならと割り切るしかない。
風呂から上がりいつものようにおむつを当てられてスカート付きのロンパースを着させられると、和也は恵子のやさしい扱いにほっとしている自分に気付いた。
「恵子さん、結婚しよう」
「ほ、本当、うれしい。年上の女房ですけどよろしくお願いします」
「よろしく」
「じゃ、忙しくなるわね。まずは和也ちゃんのアパートから出てここに同居しましょう。いいでしょう」
「同居していいの」
「いいわよ、アパート代は勿体ないでしょ。引っ越しやいろいろ手続きは後回しにして善は急げで明日からはここから会社に通勤しなさいね」
「ずいぶん急だけど、いいよ、そうしよう」
「明日からは会社にもおむつを当てて行くのよ。ずいぶん涼しくなったからうすいおむつカバーを作っておいたから、ズボンを穿いても目立たないようにしてあげるから」
「え、そこまでしなくてもいいでしょ」
「だめよ。1日中おむつを当てていた赤ちゃんのお尻の肌具合を観察して練習しなきゃ。来年の春には本当の赤ちゃんが生まれるのよ。練習しなきゃね」
和也は恵子にプロポーズしなきゃよかったのか、と一抹の後悔に包まれていた。
 
終わり
 
おとなの赤ちゃん返り
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