自業自得ではなくて
(ねえ、どうしておむつを当ててはいけないの)


芥川 秀一


和也は良夫がおむつをするのを見ながら、今日はおむつをしていなかったのか、いや外出するときはしていないのか、などと考えながら見ていた。良夫がまだ赤ちゃんで本当におむつをしていたころや、美奈のおむつ替えを見ながら加代子の手際良さに感激していたりしていた。そして良夫はいとも簡単にスカートを穿いてしまった。これからどうなるのか、何が起きるのか、交換条件で言ってしまったことが起きることに不安とそして変な気持ちでもあるが期待するような気持ちもあった。しかし、期待するような気持ちが出ると和也はそれを心の中で打ち消していた。赤ん坊のおむつ替え、いや、子供の世話ばかり焼いて亭主にはちっとも世話を焼いてくれない和也のヤキモチの気持ちもあったのかもしれない。加代子との夜の営みの回数もめっきり減った。美奈の出産までは仕方のないことと分かってはいても加代子が子供たちを世話するのと同じことを和也にしてほしい、そんな気持ちがくすぶっているのも事実だった。
良夫はまず穿くことはありえないと思っていたスカートをいとも簡単に穿いた。紙おむつを当てて真っ赤なスカートを穿いた良夫が目の前にいる。自業自得と思いつつも和也は自分がおむつをすることにまだ、踏切りが着かない。そしてそこに催促があがってくる。
「パパ、今度はパパの番だよ」
子供との約束は守るべきだし、ましてや自分から言い出したことは守らなければいけないと思いつつもどうしたものか、なんとも言えないし、行動もできない。
「あなた、準備するわね、約束でしょ」
加代子はどたんばになれば和也に見方してくれると思っていたが、加代子も良夫と同じことを言い催促してくる。加代子は買ってきた紙おむつの袋を広げるとその中のひとつを手に取って床に広げる。和也は吸収性のいいらしいギャザー張りの紙おむつの中をじっと見る。加代子はそのギャザーを手でなすって平らに伸ばしている。加代子は和也の前に来ると座っていた和也を立たせようとする。
「はい、和ちゃんの番ですよ。おむつしましょ」
「加代子、本当か?」
「本当よ。和ちゃんもおむつして赤ちゃんのように少し素直になりましょうね。いい子でしょ。和ちゃんは」
加代子の口から思わぬやさしい言葉が出てきた。良夫も一緒になって強引におむつと言われたら、和也は強引に拒んだだろう。しかし、思わぬ加代子のやさしい言葉に和也は、今度は俺にやさしくしてくれる、やさしい加代子が帰ってきた、という気持ちで一杯になっていた。和也はソファに座っていたが加代子の手によってそっと立たされると、紙おむつが広げられた場所に誘導されてしまう。そこで、加代子は和也のベルトを外し、ズボンを下ろす。そして下着も脱がしてしまう。加代子はそっと和也の手を取ると紙おむつの上にお尻を着くように誘導する。
「はい、和ちゃん、そこに座って頂戴ね、はい、いい子よ」
和也はもう、加代子のいいなりになっていた。良夫もすなおになった和也を何も言わないでじっと見ている。
和也はじっと天井を見つめていた。下腹部には加代子は紙おむつを当てていた。その感触を確かめながらも何も言えない。少しごわごわするがお尻を包みマジックテープを当てるのにお腹を少し押されているのがはっきりと分かる。
「さ、出来たわよ、かずちゃん」
加代子は横腹を「ポンポン」と叩く。和也は寝たままで起き上がることができない。それでも顔を少し上にあげて、自分の下腹部を見るとそこには確かに紙おむつが当られていた。恥ずかしい感じと加代子にやさしくされている感じで、照れくささに加代子に膝枕をせがむ。
「しょうがないわね」
加代子はそう言って和也に膝枕をしてあげる。加代子は和也の頭を撫でながらまるで赤ん坊のように夫の和也の顔を見つめている。
「ママ、パパもおむつが替えやすいようにスカート穿かなきゃね」
和也は一瞬びっくりしたが、もう良夫に反論する気持ちはない。良夫や加代子の気がすむようにすればいい。そんな少し落ち着いた気持ちになっていた。
「そうね、紙おむつのままじゃ仕方ないし、おむつ替えはスカートの方がいいよ、ってパパが言ったのよね」
加代子も夫のおむつ姿を見ているのは辛い気持ちがある。ここは良夫の言う通りにしよう、和也がこれだけ素直になってくれたのだから。加代子は良夫と目を合わせて「そうしよう」と合図をしていた。その会話を和也はもちろん聞いている。そしてその言葉を自分が言ったことも認めていた。良夫と加代子がおむつの次はスカートだと言うのなら、それもいいだろう。
「あなた、頭を上げてね。座布団を入れるわよ」
和也は加代子の膝枕から頭を上げると、そっとそこに座布団が2つ折りにされて当られてきた。和也はそっと頭を座布団に下ろす。加代子と良夫は奥の部屋に行った。
和也はおむつを当てられたおしりと股の感触を確かめながら座布団に頭を載せて目を瞑っていた。どのくらいそうしていたのだろう。
しばらくすると、良夫と加代子の話し声が近づいてきた。
「これはもう、ママは穿けないスカートだからパパに穿いてもらいましょう。でも、少し短いかな?でもアンダースコートもあるからいいわよね」
加代子は女学生時代に穿いたテニス用のスカートとアンダースコートを手に持って良夫とそして自分にも言い聞かせている。
「アンダースコートって何?」
どうみてもひらひらが多く着いているパンツにしか見えない良夫は不思議がって加代子に聞いてくる。
「このスカートは運動しやすいように短めなのよ。だからスカートが捲れてもいいようにスカートの下に穿くものなのよ。だからアンダースコートって言うの」
「へえ、まるで、おむつカバーだね」
「そうね、でも中にはビニールが無いから、おむつカバーにはならないけど、そんな感じね」
今持っている加代子の洋服の中では和夫に穿いてもらうスカートは無い。無いというか穿いて欲しくない。そこで、もう穿かなくなったスカートとして思い出したのが、このテニス用のスカートだった。和也に紙おむつ1枚で居させるよりはずっといい。

 

 
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