仲直り
(ねえ、どうしておむつを当ててはいけないの)

芥川 秀一


「パパ、パパもおむつを替えやすいようにスカートを持ってきたよ」
良夫は久しぶりに和也に笑顔で話し掛けてきた。和也は紙おむつで包まれたやさしさにあふれた感じで一杯な気持ちとズボンを脱いでおむつ1枚のおかげで少し寒いのを我慢している状態だった。スカートでも何でもいいから少し下腹部に着るものが欲しかった。
「あなたの言うとおり、おむつ替えがしやすいようにあなた用にスカートを持ってきたわよ。さ、立って」
加代子は和也の手を持ってやさしく和也を立ち上がらせる。紙おむつが少しごわごわとお尻や一物を刺激するが、和也はそのまま加代子の前に素直に立ち上がった。
「はい、いい子ね。そういう風に素直にならないとね。おむつ1枚じゃ少し寒いでしょうからこれも一緒に穿きましょうね」
和也は、加代子のやさしい言葉に黙って従うだけだった。おむつだけではなく、スカートまでも良夫と同じように穿くなんてありえないが、今は素直に加代子に従ってしまう。
「はい、アンよを上げて、そう、こっちもよ」
和也はひらひらの一杯付いたものがアンダースコートだと分かっていたが、黙って素直に加代子の言うなりになった。加代子はアンダースコートを上に移動させ、紙おむつを隠すように穿かせた。
「ママ、おむつカバーみたいだね」
「そうね、よく似合いますよ」
加代子は同じように和也の足を右左と上げさせながら、スカートも穿かせた。スカートの下からは、アンダースコートが少し見え隠れしていた。アンダースコートの下には紙おむつを当てているので少し膨れ上がりスカートの下からアンダースコートがちらちらと見える。
「さ、できた、おむつを当てた赤ちゃん2人お着替え終了ね。あ、美奈ちゃんの様子を見て来るわね」
加代子は和也と良夫を残して奥の部屋へと行った。和也はソファに腰掛けた。さっきからの寒さが少し和らいだが、その寒さのせいで尿意を催していた。しかし、トイレに行くのも何か変だし、ましてや、いくらおむつを当てているからといっておもらしすることもできない。すると、良夫もソファに近づいてくると和也の隣に座った。
「パパ、よっちゃんと同じだね、おむつも、スカートも」
「そうだね。おむつ当てられちゃった」
和也と良夫はお互いの顔を見ながらニコッと笑った。和也は良夫の肩に手をかけると良夫も和也の背中に手を回してくる。これで仲直りができたのだろうか。良夫の言う通りにしてあげ、同じ服装で同じソファに腰掛けて手で体の感触をお互いに確かめ合っている。幼稚園の良夫なのに、同じことを経験することでお互いを理解し合えるのだろうか。和也は少しうれしくなっていた。良夫にもそういう気持ちが目ばえていた。しかし、心から和也に心を許してはいなかった。おむつにスカート、そこまでは、同じことを体験して気持ちが合ったように思えた。でも良夫はまだ和也を警戒している面もあった。
一方、和也はこれで仲直りはできたと思い、うれしかった。後は一緒にお風呂に入ってオモチャで遊べればいいと思い始めていた。
「良夫、一緒にお風呂入ろうか?」
「やだよ」
仲直りできたと思った和也はがっかりしたが、もう良夫には反論しなくても落ち着いていられた。もう少しだ。もう少し打ち解けよう。それが必要だと感じていた。
「パパ、おしっこしようか」
良夫の突拍子もない言葉には慣れてきていたつもりだったが、やはりびっくりする。しかし、和也は今まではとは違がってニコニコすることが出来た。しかしおしっこしようかというのはどういう事かと真剣には考えてみる。
「パパ、赤ちゃんみたいにおむつを2人ともしているから、おしっこしても大丈夫だよ。ママが、おむつを替えてくれるから大丈夫だよ」
そういうことと思いつつも、良夫の考えることについていくのが精一杯だった。おむつを当られアンダースコートに短いスカートを穿いてもズボンを逃がされた寒さは収まらない。その寒さが尿意を一段と強くしていた。強くなってはいたが、追いそれとはオシッコは出ない。しかし、ここで良夫を打ち解けるには良夫を同じことをするのが一番いい方法だと思う。それも率先して良夫と楽しむしかない。和也は良夫を怒りたい気持ちから良夫と童心に帰ったつもりにならなければならない。
「おしっこ漏らしちゃーか」
和也は良夫の言うようにオシッコをしようかという気持ちに素直にはなれない。トイレ以外での排泄はおもらしであり、たとえおむつを当られていてもおしっこを漏らすという言い方が和也にはしっくり来る。しかし良夫にはそんな違いはどうでもいい。パパと一緒に同じ格好で同じおしっこをするということで満足なのだ。
「本当、パパ、もう怒らない?」
「ああ、大丈夫だよ、おしっこ漏らしちゃおうか?」
「うん、おしっこしよう」
良夫はそういうとソファに座っている和也の膝に上に腰掛けた。そして頭を和也の胸に埋めて手は和也の肩にしっかりかけてきた。
「パパ、じゃ、おしっこするよ。それでね、終わったら一緒にママを呼ぼうね」
良夫は顔を上げて和也の顔を見る。じっと見て和也が怒らないかどうかを確認している。
「ああ、わかったよ。ママを呼ぼうね。それにしても本当におしっこが、もう漏れちゃいそうだ」
「パパ、じゃ、おしっこ漏らしたらママを一緒に呼ぼうね」
和也は良夫の目を見ながらはっきりと頷いた。
「ママ、オシッコ出ちゃった、て一緒に言おうね」
和也はもう一度大きく頷いた。
しばらく、二人とも黙って神経を集中していた。和也も良夫を抱きしめ、良夫も和也の肩をしっかり抱いている。うっすらとアンモニアの匂いが漂ってきた。おむつはおしっこを十分に吸ってはいるが、生暖かい感触が肌を追おう。漏らしてしまったという感覚はあるが、紙おむつはスムーズにおしっこを吸収しているようだ。それほどの違和感はないが、一物を包む生温かい感触はなんともいえない。良夫も出し終わったのか、ひとつ身震いをすると顔を上げた。和也と良夫は顔を見合し確認をする。
「よっちゃんは出たけど、パパは本当に出た?」
良夫は和也の足の上に座ったままで少し後づさりすると和也のスカートを捲る。そしてアンダースコートと紙おむつをお臍の上から引っ張るとアンモニアのにおいがした。良夫は紙おむつが黄色くなって濡れていることを確認すると元に戻した。続いて和也も良夫のスカートを捲ると紙おむつを引っ張り、おしっこを確認した。
「出ちゃったね」
「そうだね、おしっこ漏らしちゃったね」
「パパ、じゃ言うよ、一、二の三」
良夫と和也は顔を上げて、加代子が居る奥の部屋をめがけて大きく合唱した。
「ママ、おしっこ出ちゃった」
「もう1回、せーの」
「ママ、おしっこ出ちゃった」
良夫と和也は声を合わせて大きな声で奥に向かって言った。
「良夫、一緒にお風呂入ろうか」
「うん、パパ。パパもよっちゃんも同じだね」
「そうだね」
和也は子供に加代子を採られた寂しい気持ち、そして良夫もママを赤ん坊の美奈に採られて寂しかったのだろう。その二人の気持ちが言葉で確認しなくてもお互いに同じおむつを当ててスカートを穿いて、そして同じおしっこを漏らすという行為で気持ちが通じ合ったのだろう。そこへ奥の部屋から加代子が戻ってきた。
「おしっこ漏らしちゃったの?2人共?」
加代子は驚いたように、しかし、やさしく聞いた。
「そう、ママ、おしっこ出ちゃった」、良夫が言う。
「ママ、おしっこ出ちゃった」、少し恥ずかしげに和也も言う。
二人の赤ちゃんは声を揃えて加代子にもう一度言った。
「ママ、おしっこ出ちゃった」

<終わり>
 

 
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