事業敗北

(ママはコギャル)

芥川秀一

次の1週間も浩二は事業に専念した。しかし先週の状況通り、浩二の事業は完全に失敗だった。原因はいろいろ考えられるが、もうこれ以上投資をしてもだめなような気がした。可能性があれば真子の父の三郎から追加の融資を受けることも考えられるが、浩二は失敗の積み重ねは止めたかった。これからはどこかに勤めて堅実に三郎への借金を返していこうかどうかそんなことばかり考えた1週間はあっという間に過ぎて行った。
そうこうしている間にまた、真子の赤ちゃんになる土曜日がやってきた。
浩二は三郎にどう話しをするかを考えた。
「現在の状況は状況として報告して今後は少しずつ借金を返していこう」
浩二はここ1週間で考えたことを三郎に言おうと思った。
「この1カ月弱の事業期間で判断するのは早急すぎるかもしれない。しかし、資金は底を尽くし、手ごたえというものが全くない。行けそうだという感触が感じられない」
真子の赤ちゃんになる毎週土曜日はいつも午後からの約束であるが、今日は三郎に話しをしたいからと三郎のアポイントをとり、30分早く真子に家に着いた。
「どうですか、事業のほうは?それに週1回は無理をして真子の赤ちゃんになってもらってすまないね」
三郎はいつものように気軽に浩二に話しかけてきた。浩二が事業失敗のことを言い出し兼ねていると三郎はさらに言い続けた。
「君の赤ちゃん姿の写真を真子から見せてもらったよ。なかなかよく似合うじゃないか。ハッハッハー。おむつの着けごこちはどうかね。ごめん、でも真子はすごく喜んでいるんだ。君には感謝しているよ」
浩二はむっとはしたが、冷静になって事業失敗のことを説明した。
「そうか、それは残念だ。失敗する事業は成功する事業よりずっと多いものだ。くよくよするな。しかし、君も言った通り、出資したものは返してもらうよ。そこはビジネスだ」
浩二はサラリーマンになって地道に少しづつ返していくことを再度確認したかった。
三郎は少し考えたようだが、浩二にこう言った。
「今からサラリーマンになって少しずつ返すというのは偉いと思うが、少し時間が掛かり過ぎるな。利子をもらいたいとは思わないが、もう少し早く返してもらえないだろうか、浩二君」
「そう言われても、地道に働いて返すしか方法がありませんので。毎月の返済は可能な限り多くしますので、よろしくお願いします」
「サラリーマンの給料からの毎月の返済ではたかがしれているではないか、何年かかると思っているのかね」
浩二は思わぬ三郎の厳しい口調に頭が上がらなかった。
「浩二君、君さえよければ真子の赤ちゃんにずっとなってくれないか?今は週一度の赤ちゃんだが、ここに泊まりこんで、ずっと真子の赤ちゃんになってくれたまえ。どうかな。おむつもお洩らしもミルクももう慣れただろう。ミニスカートもよく似合っていたよ」
「それは勘弁してくださいよ。おむつも週に一度ならまだしも1日中は勘弁してください」
「じゃ、出資金はどうする?」
浩二はどうすると言われてもどうすることもできない。毎月少しずつ返していく方法しか思いつかないのだ。
「浩二君、この3週間くらい真子は君が赤ちゃんになってくれたことで本当に楽しそうだった。週に1回だったが本当に喜んでいたよ。そういう意味で君には感謝をしている。大の男がおむつをするのも恥ずかしかっただろう。先週は君がおむつをしてさらに、レオタードを着るのに寸法が合わなかったと泣いていたが、それもまた真子にとっては楽しみの一つだ。そういう意味でおむつや赤ちゃんの格好をしてもらって本当にありがとう」
浩二は出資金の返済の話しからいきなり真子の赤ちゃんになったことに対するお礼を言われてきょとんとした。三郎は続けた。
「浩二君、真子はあのように発育遅れの子だ。あの子は長くは生きられないだろう。それは医者からも聞いている。そして、君に赤ちゃんの格好をさせるのも時期に飽きてしまうと思うのだ。だからしばらくでいいからここに住みこみで真子の赤ちゃんになってやってくれないか?」
浩二は最初に真子の赤ちゃん役になることを承諾したことを思い出した。あのときも三郎の真子への思いに負けて赤ちゃん役を引き受けたのだ。そんなことを思いだしていると三郎は具体的なことを言ってきた。
「浩二君、1年でいい。君のアパートも引き払えば、アパート代は要らないだろう。それから食事は全てこちらで出す。もちろん着るものは真子の好みのおむつにベビードレスだろうが、逆にいえば着るものの費用はいらないことになる。衣食住全て要らないわけだ。それに時期を見て君に事業のノウハウを教えよう。だから1年でいい。真子の赤ちゃんに徹してもらえないだろうか」
浩二には最後の一言が効いた。
「事業のノウハウを教えていただけますか」
浩二はこの話しに乗る気になってきた。
「もちろん、時期を見て君に私のノウハウを伝授しよう」
「しかし、おむつやミニスカートの女の子の格好はもううんざりですよ」
「そう、言わんと、君のおむつ姿の写真をみせてもらったが、ようは慣れだ。少し辛抱してもらえんかね。1年もすれば赤ちゃんごっこにも飽きてしまうと思うよ。真子はあれで意外と飽きっぽいから。運がよければ1カ月もすれば飽きてしまうさ。ただでさえ汚いおむつをそう好んで代えてあげる人間もいないさ」
三郎の説得にも迫力がある。しかし、浩二は大事なことを確認する必要がある。
「最高で1年我慢して真子さんの赤ちゃんになれば、具体的に言えば今回の出資金は無しということですよね」
浩二は恐る恐る聞いてみた。
「そうだ、私はうそはつかん」
「それと事業のノウハウを教えていただけるわけですね」
「そうだ、時期を見てな」
浩二ははっきりと聞いておきたかった。またおむつやミニスカートをはかされると思うと全てをはっきりしておく必要があると思った。
「その時期というのは?」
「浩二君、君の今回の事業の失敗の原因は何んだと思うかい。それを十分反省して同じ失敗を繰返さないこと、それが事業成功への第1歩だ。だから君の口からそれを聞き、私が納得すればいつでも事業の話しをしよう」
浩二は納得しながらうなづいた。
「よし、では話しはついた。もういつもの土曜日の真子の赤ちゃんになる時間だ。そろそろ行ってあげてくれるかい。おむつやミニスカートは恥ずかしいだろうが、少しの辛抱だ。よろしく頼む」
浩二はこれでいいのだと思いつつ、真子の赤ちゃんに徹するしかないと思いながら真子の赤ちゃん部屋へと歩いていった。
(終わり)
 

 
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