妻の願い

(ラブ・カバー)


芥川秀一

翌朝、日曜日ということもあり2人はゆっくり寝ていたが朝9時に和也は目を覚ました。昨日多少早く寝たこともあり尿意で目が覚めた。いつもならトイレへ行って用を足し、もう一眠りというところだが、和也は洋子に甘えたかった。和也は昨日当ててもらったおむつがきちんと当たっていることを確認すると、ベッドの中でおしっこを漏らしてみた。病院での最初のおむつの頃はなかなか寝たままでは出来なかったが漏らさざるを得ない期間があり慣れていた。その頃の感覚を思い出しながらおむつの中におしっこを漏らした。しばらく和也は下半身から伝わる暖かさを感じ、アンモニアの尿の匂い下半身から嗅いでいた。しかし、おしっこは段々冷たくなってくる。真夏とは言え、クーラをかけっぱなしで寝ているのでタオルケットをかけている。クーラの冷気は時としてタオルケットを通り越しおむつに当たる。洋子は隣にもう一つあるシングルベットに寝ている。和也のベッドはダブルベッドだが並んで置いてあるため、手を伸ばせば洋子に体に手を触れることが出来る。
「洋子」
「うーん」
「洋子、起きている?おしっこ出ちゃった」
「おしっこ?漏らしちゃったの、ベッドの中で?」
洋子は少し怒ったような感じで和也に言ったが、昨日からのことを思い出し、ここは冷静にやさしくしてあげなくてはと思う。眠い目をこすりながら洋子は動き始めた。
「おむつしているから大丈夫よね、布団には染みてないわよね」
「そう思う」
「わかったわよ、今おむつ取り替えてあげるから」
洋子は昨日買ったおむつをとりに行くとてきぱきとおむつ替えの準備をした。怒ってはいけない、和也はストレスで疲れているのだからと思うが朝一番からのおむつ替えに洋子は多少不機嫌でもある。
洋子は和也のタオルケットを捲り、昨日着せたネグリジェも捲った。おむつカバーを外していくと尿の匂いがプーンとしてくる。お湯に通したタオルできれいに拭いてあげ、昨日一応買っておいたシッカロールを当ててあげた。和也は洋子のされるがままにされている。
洋子は新しい布おむつを布き、和也を横に移動させながらてきぱきと和也におむつを当てた。最後にネグリジェを膝まで下ろし、タオルケットをかけてあげた。
「和也、もうすこし寝ようか」
「うん」
二人はそのままベッドでもう少し寝た。しかし、和也は次に襲ってきた便意に悩んだ。和也は少便が出た後、少しすると大きな方も出る習慣だ。それがクーラのかかった部屋でおむつ替えをしたことで多少お腹が冷えたのだろう、便意が来るのがいつもより早かった。
和也は洋子に甘えたい一心で大きな方も小便に続いて漏らそうと決心した。洋子には悪いと思うが、洋子も甘えることに納得してくれたのだからと思う。小便のおむつ替えから5分くらいだろうか。今度はウンチをおむつの中に漏らした。おならの匂いが部屋に立ち込め始めた。
「和也、おならした?」
「洋子、ウンチが出ちゃった」
「ウンチ!もう、さっきおむつ替えたばかりじゃない。トイレに行けないの」
洋子はさっき替えたばかりなのもまた、おむつを替えるのかと思うとさすがに怒った。
「洋子、病院のようにやさしくして」
「もう、本当に困った人ね」
洋子は内心は怒っていたが、和也の昨日からの異変があるので顔と言葉はやさしくしようと努めた。
「もう、仕方ないわね」
洋子は文句を言いながらもまた和也のおむつ替えを始めた。いくら慣れているとは言え、故意に漏らした便をきれいにするのは癪に障る。しかし、持ち前の明るさで和也の汚れたおむつを外していく。
「和也、もう起きようか。すっかり目がさめたわ」
「そうしようか」
「和也、新しいおむつはするの?昼間はトイレに行けない?」
「おむつしてはだめ?」
「わかったわよ。でも布おむつはあと20枚しかないから夜の分でおしまいよ。洗濯はもちろんするけど。だから、昨日昼間は昨日買った紙おむつでもいい」
「仕方ないからいいよ」
「朝ごはん食べようか」
洋子は和也に紙おむつを当てると和也を残してキッチンに行った。朝ご飯の支度をしながら、和也をどうしたものかと思う。このままずっとおむつをし続けるのだろうか。洋子も少しストレスが溜まる。和也からおむつを遠のけるにはどうしたらいか。洋子は自分の気持ちを整理してみる。私は一人娘で育ってきたけど、そう、小さい頃は妹がほしかったな。兄貴や弟は欲しくなかった。姉さんは欲しかったけど、自分が生まれた時に姉さんがいなかったら姉さんはいくら欲しがっても無理。だから妹が欲しかった。洋服を選んであげたり、私が作ってあげたり、そうしてお化粧も手伝ってあげて渋谷や原宿のお店を散歩する。そういう風に言って両親をよく困らしたもの。洋子は朝食の準備をしながらそんな昔のことを思い出していた。
 でも、そう今でもそういう気持ちはあるのよね。心では諦めているけどそんなことができたらいいな、という気持ちは今でもある。洋子は何かに閃いた。和也の要求でおむつや赤ちゃん扱いをしてほしいのならそれはかなえてあげよう。その代わり私の隠れていた生涯無理だと思っていた子供の頃からの夢。それが叶うかもしれない。
洋子はできたハムエッグを皿に移す。トースターからは完成した「チン」という音が聞こえる。コーヒーを飲むためのお湯を沸かしていたポットからもメロディが流れ始めた。これは洋子の夢の実現へのファンファーレだろうか。洋子は和也を朝食に呼びに入った。
「和也、朝ごはんできたよ、一緒に食べよ。もう起きなさいよ」
「もう、起きてるよ。すぐに行く」
テーブルに和也がやってきた。さっき当ててあげた白い紙おむつがネグリジェの中に見える。
「紙おむつはどう」
「やっぱ、少しごわごわするね」
「もう少し買ったほうがいいのかな。でも勿体ない気もするし」
洋子は和也のおむつは一時的なものと信じている。だからこれ以上の出費はあまりしたくないと思っている。しかし和也の様子しだいだ。もし、続くようなら、夜寝るときには布おむつを当ててあげたい。半分ほど朝食を食べたところで洋子は切りだした。
「和也、一つ相談があるんだけど」
「ん、何、遊びに行く話?」
「その話もあるけど。そうじゃなくてね。あのね。和也には赤ちゃんのようにして優しくしてあげる。おむつもしてあげる。オッパイもあげる」
「ありがと。それで相談って何?」
「あのね、私は一人っ子でしょ。だから子供の頃から兄弟が欲しかったの」
「気持ちはわかるけど、もう、今さら両親に兄弟が欲しいと言っても、無理だし、そんな無理なことより早く孫を作りなさいと言われちゃうよ」
「それはそうよ。わかっているわ。相談わね、私は妹が欲しかったの。妹の洋服を作ってあげたり、お化粧を手伝ってあげたり、そうしてね渋谷とか原宿とか一緒に遊びに行きたかったな。いろいろ女の子として世話を焼いてあげたかったの」
「へー、洋子の世話好きはよくわかるけど、妹はいないのだから無理だよね」
「だから和也に相談しようかなって」
「俺に相談されたってできることとできないことがあるよ」
「それがあるのよ」
「いくら何でもそういうプレゼントはできないよ」
「あるのよ」
洋子は和也を焦らしながら和也の反応をみている。和也はいくら何でも神様でもあるまいし洋子の妹をプレゼントできるわけが無い。和也は洋子の焦らしに本気になってくる。
「洋子、何だよ相談って。早く言えよ」
「私も和也の言うことを聞いて和也におむつをしてあげておっぱいあげて赤ちゃんのようにしてあげたし、今日もそうしてほしいのよね」
和也は唾をごくっと飲み込んで深くうなづいた。
「相談というのはね。和也が私の妹になってくれないかなっていうこと」
「俺が洋子の妹に?」
「そう、かわいいお洋服を着せてあげる。お化粧もしてあげる。それで原宿にでも遊びにいきたいな」
和也はなんだ、そんなことかと思うがそれは女装するということに気づく。そして今も洋子のネグリジェを着ていることを思い出す。
「そう、今も私のネグリジェを着ているし、昨日はおむつを替えるのが大変だから昼間は私のスカートを穿くとも約束したじゃない。だから後は和也にお化粧してあげる。そして原宿にでも行きたいな」
「女装ね、そういう趣味はあまりないし、今でもネグリジェの下から毛の生えている足が出ているのはあまりみっともいいもんじゃないよ」
「大丈夫よ。ストッキングを穿けば目立たなくなるし、気になるなら黒のストッキングもあるわよ。それよりミニスカートだとショーツじゃなくて和也の場合はおむつが見えてしまうほうが問題かも」
「うん、それは避けたいな」
和也は洋子のペースにはまっている自分に気づいていたが、洋子がどこまで本気かを試してみたくなった。
「でも女装して外出したらやっぱり男だから恥ずかしいから止めよ」
「何よ、私は和也におむつを当ててあげて、おしっこもうんちもオモラシした和也のおむつを替えてあげているのに和也は私の夢には協力してくれないの」
洋子は半べそ状態で和也に訴える。さすがに和也は考えてみたが、このおむつやネグリジェも家の中ならという気持ちもあった。こういう格好で外に出るのは自信が無い。沈黙の断りをしようかと思ったがそれくらいで引き下がる洋子ではない。
「和也、これからも和也が望むならおむつを当ててあげるわよ。もしおむつが汚れたらやさしくきれいにしてあげるわよ。だから私の願いも叶えてよ」
「でもこういう格好で外に出るのは勇気が要るよ」
「和也は自分だけ言うことを通して私の言うことは叶えてくれないの。ギブ・アンド・テークでしょ」
「それはそうだけど」
「もし、私の言うことがだめなら、和也のおむつももうお終りにしましょう」
「それは困るよ」
洋子は和也が本当に自分の願いを受け入れてくれるのなら和也のおむつや赤ちゃん願望も本当なのだろう。でもここで和也が断ったら一気におむつも止めたほうがいいと思う。洋子はどちらでもいいと思ったがそれは和也しだいだ。
「おむつお終りにしようか」
洋子には和也におむつは止めてほしいという潜在的な思いがあった。それが否定的な言葉になって出てくる。和也は悩んでいたがようやく決心する。
「わかったよ。洋子の言う通りにするから。でも、ロンパースとかも買うか作るか考えてくれな」
「そう分かったわ」
洋子は少しがっかりもしたが、和也を妹のように扱えることに興奮していた。もう、頭の中では和也に何を着させてどういう風にお化粧をしてとかそんなことを考えていた。
「どうしたの。薄気味悪く笑って」
「和也に何を着てもらうかなとか、お化粧の口紅は何色がいいかな、なんて。私はお化粧もするけどそんなに圧化粧はしないでしょ。だから化粧品もいただきものであまり使っていないものも結構あるのよ。じゃ、支度して今日は原宿でお昼ご飯を食べましょうか」
「支度って」
「だから言ったじゃない。私の妹として恥ずかしくない洋服とお化粧よ。11:00には出ましょう。そうすればお昼には原宿に着くから。さあ、忙しくなるわよ」
急に元気になった洋子は朝食の後片付けを始めた。和也は家でゆっくりしていたいと思ったが体が動かない訳でもない。夜に洋子に甘えるには少し洋子の言うことを聞いた方がいいと思った。
「和也、こっちに来て」
いつの間にか朝食の片付けを終え、洋子は寝室にある箪笥を調べていたらしい。新聞を読んでいた和也は寝室に行ってみるとそこには洋子の古着が並べられていた。
「和也、どう、まだ着られそうな洋服が一杯あるでしょ。下着もあるし、靴もあるでしょ。私の十代の財産よ」
「財産は大げさだな。要は古着ということでしょ」
「そうだけど勿体無いから捨てないで取ってあるのよ。この中から一応私のセンスで選んではあるけどやっぱり着てみないと分からない面もあるでしょ。サイズは和也も私も同じ位だから心配ないと思うけど。最近は少し太ったかな。でも大丈夫と思う」
和也は一通り眺めたがどれをみても子供っぽい洋服ばかりだ。そしてスカートも短いような気がする。
「皆子供っぽい洋服だね」
「そうよ、そういう洋服を選んで出してみたんだから。私の妹はまずかわいい洋服からよ。さあ、そのネグリジェを脱いで」
和也は上のボタンを外すとネグリジェを脱ぎ去った。和也は洋子が朝当ててくれた紙おむつ一枚の格好だ。
「そう、おむつをしているのよね。ショーツは要らないわね」
「ショーツじゃ男の大事なものがはみ出るぜ」
「そうね、でもブラは要るでしょ。大人の背丈の女の子がブラもしなかったらそのほうがおかしいわ」
「ブラジャ!」
「そうよ、まずはブラジャからね」
洋子は白いブラジャを取り上げると和也の前に立った。和也は大柄ではなく、痩せ型で身長も洋子より少し高いだけだ。
「はい、手を出して。ここに入れて」
洋子はブラジャを和也にするために手を入れさせ肩にかけた。そして後ろに回りホックをかけようとする。
「大きすぎるかな」
洋子も痩せ型ではあるがバストはそこそこある。豊満というわけはないがそこそこバストがある。その洋子が昔使っていたブラジャだから男の和也にはダブダブになってしまう。
「そうね、パッドかしらね。それとも和也のゴルフボールでも入れてあげようか」
「冷たいし、重いだろう、そんなのいやだ。このままでいいだろう」
「だめよ、これではみっとも無いわ・テニスボールじゃお大きすぎるだろうし」
「じゃ、ブラなんか止めよう」
「だからパッドよ。だから、これをこう入れてほらちょーどいいわ」
洋子はほどよくきつくなったブラの後ろのホックを留める。和也は胸が少し締め付けられた感じがしたが、パッドが入ったくらいのきつさでどうということはない。
「それからこのブラウスでしょう。丁度いいわ。難しいのはスカートかな。これを穿いてみて」
和也は初めてスカートを穿いてみた。和也にとっては昔穿いた半ズボンのようだが、又に何もないのが半スボンとスカートの大きな違いだ。
「丁度いいわね、和也。少し捲れてもおむつは見えないわよ」
「でも、この毛が目立つな」
「そうね、じゃ、夏に黒いストッキングを穿いているとおかしいから普通のストッキングね。ストッキングはさすがにお古はないから、少し電線しているけどこれ大丈夫だから穿いてみて」
和也はスカートも初めてだが、ストッキングも初めてだ。子供の頃は寒いとき股引きを穿いた記憶があるがその感覚に近い。しかしストッキングは肌に密着する。
「何かすごく蒸れそうだ」
「夏にストッキングを穿いている人は結構いるわよ。冷房に対してはやはりストッキングが一番よ」
和也はストッキングを穿いて、おむつの上まで上げる。ストッキングから白い紙おむつが透けて見えるが一見しただけではおむつとは分からないかもしれない。しかし、ショーツと違って少しだぶつくのが異様になってしまう。
「和也、かわいいわ。女の子みたいよ。でも、その髭は剃ってお化粧しなきゃね」
「剃ってくる」
「待って、電気カミソリではだめよ。毎朝見てるけどやっぱり限度があるみたい。カミソリで剃ってあげるからそこに三面鏡の前に座って。今お湯とかも準備してくるね」
三面鏡の中には身なりは女の子だが、髭がある男が座っている。洋子の言うままにしてここまで洋服を着てきたが、髭を剃られお化粧されるとどうなるのだろう。自分の顔をまじまじと見て和也は初めて洋子の三面鏡の引き出しを開けてみた。そこにはいろいろな化粧道具や、香水、そしてかつらまであるようだ。かつらは今はやりの派手ではない茶色だ。
「和也、何してるの」
「ちょっと開けてみてだけだよ」
「別にへそくりはありませんよ」
「そういうわけじゃないよ。本当にちょっと覗いてみただけだ」
「怒っているわけじゃないわ。和也も化粧道具に興味を持ったのかなあ、なんて」
「そういうわけしゃない。ちょっと暇だったから」
「そうそう、時間がないわ。さ、剃るわよ」
洋子はまず、温かいお絞りで和也の髭を暖める。その後は器用に髭を剃っていく。
「洋子、うまいね。まるで床屋さんみたいだ」
「うまいでしょ。病院では手術のためとかで剃り毛することもよくあるから慣れたもんでしょ」
和也の髭を剃り終わり、すべすべになったところに洋子は和也にお化粧をしていく。やはり男の肌をきれいに見せるには圧化粧になる。口紅はそこそこ派手な真っ赤なものを縫っていく。

 


「どう、きれいになったわ、和也。仕上げはこれね」
洋子はさっき和也が開けていた引き出しをもう一度開けると中から茶色のかつらを出した。
「これわね、私がショートカットしていたときに時々はおかっぱみたくなりたい時に買ったかつらなの。耳が隠れて首に少し垂れ下がる位の長さだから髪の毛もあまり気にならないと思うわ。それに今髪を染めるのが流行っているでしょ。でも茶色に染めるほどの勇気はなくてさ。でも茶色の髪にしたいな。それで悩んだ結果がこのかつらよ。これならいつでも茶色に染めることができるでしょ」
洋子は和也の頭におかっぱのかつらをかぶせた。その三面鏡の前には可愛女の子が現れた。決して美人ではないが和也は女の子に見えた。和也は変身した自分をしみじみと眺めながら、これなら男と思われることもないかもしれないと思った。
「いいわ、和也。私の可愛妹として合格よ。まあ、もう11時。後は靴ね。玄関に3足出してあるの。履いてみてくれる。私も少しお化粧したいから。すぐに行くから」
和也はしぶしぶ玄関に行ってみる。そこには赤、黒と白の靴が一足ずつおいてあった。どれも可愛らしい靴だ。しかしハイヒールとはいかないまでも皆かかとが高い。こんな靴で歩けるのだろうか。
「和也、どう、はける靴あった?」
奥の寝室から洋子が聞いてくる。
「まだ。これから試してみる」
そうはいうものの、ハイヒールのような靴など和也は履いたことがない。おそるおそる黒の靴をまず手にとって履いてみた。靴の中に右足は入ったがかかとが高い。次に赤の靴も白の靴も試したが、皆はけてしまう。しかしどれもかかとが高くて歩けるのだろうか。これは無理だ。運動靴で十分と思っていたところに洋子がやってきた。
「どう、履けた」
和也は試したみた結果を洋子に話すが、洋子は話しを聞きながら赤い靴を和也の足に履かせた。
「そうね、サイズは皆同じ位だから。後はデザインね」
洋子は女性としては大きな足をしていて和也は男としては小さな足だ。靴は23から24cmを揃えている。
「和也、皆同じ位で履けるのならこの赤い靴にしましょう」
「赤?」
「そう、お姉さんの言うことを聞いて」
和也は仕方なく両足にその赤い靴を履いてみるが最初は立つのがやっとだ。
「そう、そこで足ふみをして練習してみて。すぐに慣れるわよ。私もハイヒールを最初に履いたときはそうだったから」
「これじゃ、歩けないよ」
「大丈夫、私が腕を持ってあげるから。駅までは歩いて5分じゃないの」
洋子はドアを開け、和也を押し出すとドアを閉めて鍵を閉めた。洋子は和也の腕を取るとゆっくりと駅へと歩き始めた。
渋谷までは電車で30分。渋谷で乗り換えて原宿はすぐだ。しかし、慣れない女装スタイル、特にハイヒールがやっぱり和也には合わない。スカートの下のおむつが見えてしまわないように足を付けるのはいいが、ハイヒールによって歩き方が本当にゆっくりになっていた。それでもなんとか原宿を散歩し、洒落たレストランでランチを食べた。
「久しぶりね。原宿は。何年ぶりかしら」
食後のコーヒーを飲みながら窓の外を見ていると洋子が立ち上がった。
「和也、ちょっとトイレね」
洋子はそれだけ言うとトイレに行ってしまった。和也もさっきからおしっこを我慢していたのを知ってか知らずか洋子はなかなか戻ってこない。おまけにこのレストランは冷房がよく効いている。尿意もかなり強くなっている。実はマンションで洋子に女装させられている最中にもおしっこをもよおし紙おむつの中に漏らしていた。そのときは洋子には内緒にしていたが、今ここでまたおむつにおしっこを漏らすと2回分だ。和也はおむつから沁み出すのではないかと心配だ。最近の紙おむつは吸収性がよいとは聞いているが2回分はどんなものかと不安だ。襲ってくる尿意と戦いながらふっとトイレの方を見てみるとまだ洋子が並んでいるのが見えた。日曜日の昼下がりで一番混んでいる上に冷房が強いのでトイレに行く女性が多いのか、それともトイレの数が少ないのかわからないが一向に洋子は帰ってこない。
和也は強くなる尿意に耐え切れそうにもないので自分の格好を確認してみる。紙おむつの上にストッキングを履いている。少し位漏れても大丈夫だろうし、最近の紙おむつは吸収性がいいことも聞いたことがある。そう判断して何食わぬ顔でおむつの中におしっこを漏らした。すっとしてぼんやり外を見ていると洋子がようやく帰ってきた。
「トイレが混んでてさ。一つが工事中とか使えないの。だから時間がかかったわ。ごめんね」
座った洋子に和也は耳打ちを始めた。周りに聞こえないようにそっと話をした。
「おしっこ漏らしちゃった。マンションで1回漏らした。だから2回分が溜まっている」
洋子はびっくりした顔をしたが、こんどは和也に耳打ちをする。
「一様予備に紙おむつがバッグの中に入ってるけど、トイレで取り替えようか」
「でもあの混雑はいやだし、かと言って男用のトイレにはいけないし」
「デパートの女性用トイレに行こうか」
「女性用トイレには入れないよ」
「じゃ、マンションに帰るまで我慢できる」
和也は頷くしかなかったが、洋子はもう一つの用事を思い出した。和也がどういう顔をするか心配だったが和也の願いのためだ。
「和也」
洋子は普通の会話に戻った。不安そうな和也の顔を見つめて言ってみる。
「洋裁用の生地をみてみたいな」
「えー、もう帰ろう」
「和也のためのあの生地よ。つきあいなさいよ」
洋子は和也の下半身を見て問題ないことを確認すると立ち上がった。和也はしぶしぶついていく。二人はいろいろな生地を扱っている店に入ると赤ちゃん用によく似合う生地を買った。和也の歩き方をみていて洋子はそろそろ限界かなと思った。汗と2回分のおむつの中より和也の靴づれの方が心配だった。二人はさらにゆっくりと歩きながらマンションに帰っていった。マンションの入り口に着いた時だった。
「こんにちは」
マンションの1階に住むおしゃべりなおばさんに出会った。和也は早く部屋に入っておむつを取り替えて欲しかったが、やな時にやなおばさんと会った。
「お友達?」
「そうです。学生時代の友達の和江です」
洋子はでまかせのうそを言う。
「あら、こんにちは。二人とも夏休みかしら。私なんか毎日が夏休みよ」
「だんなさんは元気?」
「ええ、元気です。でも今日は友達と一緒にしゃべろうかとおもって。失礼します」
洋子は失礼のないようにそこそこで分かれ、二人はマンションの3階に向かった。部屋に入るなり和也が言った。
「おむつ、取り替えてくれ」
「あーそうだったわね。和也の靴づれを心配していたからつい忘れていたわ。ストッキングに包まれたお漏らし2回のおむつはどんな具合かな。和也シャワー浴びてきたら」
「洗ってくれる?」
「夕飯の支度をするから今日はできるでしょ」
そういう言いながらも洋子は和也の衣服を脱がしていく。和也はブラジャを外そうとするがとても手が届かない。届いてもホックを外せない。
「和也、私が外してあげる」
「女はよく背中まで手が届くね」
和也は不思議そうな目で洋子に問うが、洋子は、何だそんなことと言わんばかりの微笑みを返す。
「そうね。今度教えてあげる。私達も後ろまで手を伸ばすのは大変よ。だからブラを付けるときも外すときもやり方があるのよ」
「へー、今はやりのマジックみたいだね。男にはわからん」
「そう?、じゃシャワーを一人で浴びてきたら種明かしをしてあげる」
和也はそそくさと風呂場に向かいシャワーを浴びにいった。洋子は結婚してから和也の前で着替えたこともあったが、やはり夫婦とはいえなるべく隠しながら着替えている。だから和也は洋子がブラを付けたり外したりするところ見たことがない。テレビでもそういう場面は見たことが無かった。和也はシャワーを浴びながら考えたが簡単にブラジャを付ける方法は思いつかなかった。
「出たよ」
「お化粧も落としてきた」
「顔は2回も石鹸で洗ったよ。こっちも2回分だから念入りに洗ったよ。おむつかぶれとかになったらいやだから」
「そうね、今日は洗濯できなかったから布おむつは夜寝る前にとっておいて紙おむつにするよ」
有無を言わさず新しい紙おむつを和也に当てていく。洋子は普段着用のティーシャツとスカートを用意していた。さっきの外出は一様外出用の洋服を選んでいた。
「普段はこのティーシャツとスカートにしましょう。家の中にいるときはおかっぱのかつらとストッキングは要らないわね」
「わかったからさっきのブラの種明かし。教えてくれよ、洋子」
「いいわよ。まずブラをこうしてね」
洋子はブラジャを和也の胸に巻きつける。ホック位置が前にくるようにして巻きつけた。
「さきに肩紐に手を通さないわけね。そうか、先に前でホックを止める。ほー」
「そう、それからこうして回すのよ。それから手を通してくれる」
和也はブラジャを付ける恥ずかしさより、いくら考えてもわからなかったブラのつけ方に感激していた。
「和也、これで一つ女の子のマナーというか常識がわかったわね。もっと妹として教育してあげるから。あ、その前におむつね。和也の願いにも協力するわ。この上にお尻をついて」
洋子は紙おむつを広げるとそこに和也を誘導した。和也は素直に紙おむつの上にお尻を付く。
「そうだ、女の子のもっと大事なことを教えなきゃね。そうもっと両足を開いて」
「今度は何?」
和也は両足を開くが何をされるかと思うと恥ずかしく幾分足を閉じてしまう。
「何よ、もっと開いて。うんちに汚れたおむつを取り替えるときは肛門まで丸見えでも恥ずかしくないんでしょ」
そう言うと洋子は手で和也の両足を広げ、そのまま寝室に行ってしまう。戻ってきた洋子の手には小さなおむつのようなものを持っている。
「和也、女の子は月に一度生理があるじゃない。これはその時に使うナプキンよ。これをおむつの上に重ねてあげる。そう、肛門とおちんちんの間くらいね」
「男には生理があるわけじゃなし要らないよ」
「だめよ、女の子はその頃になるといつ生理がくるかと心配なの。だからそういう時の練習よ」
「男には生理はないんだから」
「和也は私の妹なの。お姉さんの言うことを聞きなさい。整理がひどい時にはタンポンを使う人もいるわ」
「タンポンとナプキンは違うの?」
「そうよ、妹としていろいろ教えてあげるから」
「どう違うの?」
「さっきブラのつけ方を教えたし、今はナプキンのつけ方ね。だからタンポンは今度にしましょ。ナプキンはこのシールをはがしてこうして付けるの。ね。和也の場合はこの上におむつだから吸収性は抜群ね」
「何か股に挟まっているみたいで変な気持ち」
「何言ってるの。おむつより全然小さいはずよ。ティーシャツとスカートは着れるわね。夕飯の支度をしてくるわ」
 

 
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