2.面談

新宿の有名デパートビルの一角に落ち着いた雰囲気で高級な喫茶店、貴族室がある。格調高いソファにクラシック音楽のBGMに高級なコーヒー、紅茶、抹茶にお茶受けのお菓子もあり、落ち着いた会話をするための喫茶店だ。
「このお店分るかしら」
由樹はまだ来ていないと思われる若い女性の来店を心配しながら紅茶を飲んでいる。
「大丈夫よ、Kデパートが分ればちょっと脇の廊下を歩けばすぐに見つかるはずよ」
由樹はまた入り口を見る。お客は頻繁には出入りしないが自動ドアが開いてかわいい女性が1人入ってきた。入りにくそうにして店の雰囲気を見ている。自分には不釣り合いだという雰囲気で入り口でもじもじとしている。
「由樹、かわいい女の子ね。あの子かな」
「そうかも」
「私たちは双子の中年女性ということで目印にしているから、すぐに分るわよ」
女の子はそろそろと店の中に入り一番奥のソファに座っている2人連れを見つけると進んでくる。
「あの、失礼ですけどミルキーアルバイトの件ですが」
10代後半と思われる若い女性は今時珍しく黒い髪でおかっぱだ。洋服は高校生を卒業した位で大人の仲間には入り切れていないデザインの服だ。見るからに清楚という感じだが、お金持ちのお嬢様という雰囲気でもない。
「そうです。あなたは白蔵 恵子さんですね」
「はい、アルバイトの面談に来ました」
「はい、よろしくお願いします。そこへ座ってください」
恵子は美樹と由樹に向かい合うように座る。その座り方もしぐさもかわいい。美樹と由樹は顔を見合って、お互いに頷き合う。
数分の間、初対面の挨拶と電話での内容を確認してから会話は本題に入ってくる。
「あの、赤ちゃんのアルバイトというのは何をすればいいのでしょうか」
恵子は一番気になっていた質問をようやく小さな声で切り出した。
「赤ちゃんは何もしなくていいんですよ。ベッドに寝てもらってお腹がすいたら教えてくれて、お漏らししたら教えてくれて、眠くなったら寝ていいんですよ」
「お漏らしもですか」
「そうよ、赤ちゃんですもの。おむつは以前、怪我で入院したときに経験して問題ないということでしたけど」
「それはそうですけど、健康な状態での粗相はその、抵抗がありますので」
「そう、おむつは大丈夫ということでしたけど」
「そ、それはそうですけど」
恵子はこのままでは面談の結果は駄目だと直感すると、高額なアルバイト料のことを思いだして考え始めた。由樹と美樹はもう少しというところで趣旨が合わずだめかと思ったが、考え込んでいる恵子の顔を覗き込む。恵子は2人からの視線を感じると早く何か返事をしないともう駄目だと思った。そして口走る。
「あの、アルバイト料はあの金額ですよね」
「そうよ、何もしなくてもよくてあのアルバイト料はいいと考えたのよ。赤ちゃんになれるかな、恵子ちゃん」
恵子は健康な状態でお漏らしすることの恥ずかしさに耐えれば短い期間でアルバイト料が入ると自分に言い聞かせて、決心する。
「分りました。赤ちゃんのようにしますからよろしくお願いします」
「そう、お漏らしも大丈夫なのね」
「あ、は、はい」
まだ、半分は躊躇している自分と戦いながら恵子は小さい声で返事をした。由樹はこれは少し危ないと感じるともう一度確認をしてきた。
「恵子さん、赤ちゃんのお洋服をきて、ミルクを飲んで、お漏らしをする赤ちゃんの生活ができるわね」
恵子は目を開いて、由樹と美樹の顔を交互に見て決心し。唾を飲み込むと明確に返事をした。
「赤ちゃんの生活をさせてください。よろしくお願いします」
「分ったわ。ありがとう」
恵子は赤ちゃんのお洋服にミルクにお漏らしは決心したが、まだ、不安が残っていた。
「あの、最後の質問ですけど、赤ちゃんの1日の生活はどんな感じなのでしょうか」
由樹と美樹は顔を見合わせて、頷き合うと美樹が返事をする。この内容については、今まで2人でいろいろ話をしてきて意見を出し合っていたのだ。
「赤ちゃんの1日の生活はね、ご存じかもしれないけど、赤ちゃんは3時間に一度はミルクを飲むのよ。哺乳瓶からね。水分をよく取るからおしっこもよく出るでしょうね」
美樹は恵子の顔色を見る。恵子はそんなにお漏らしはしないわ、という顔をしている。
「昼間は近くの公園に行くの。そして夕方には外出して夕食の買い物に行くのよ。ベビーカーに乗ってね」
「ベビーカーで外出するのですか」
恵子はマンションの中だけだと思っていたので、少しパニック気味に質問する。
「誰かに見られたら恥ずかしいです」
美樹は安心した雰囲気で恵子に向かって説明をしていく。
「大丈夫よ。私たちのマンションの地下に駐車場があって、そこから少し離れた公園とスーパーに行くのよ。誰も知っている人が居そうもない場所のスーパーだから安心して」
それでも恵子は知らない人に見られてしまう不安を隠しきれない。赤ちゃんのお洋服を着た自分がベビーカーに乗っている姿をじろじろ見られるかと思うとやっぱりこのアルバイトは止めようかとも思う。そんな不安を取り払うために由樹が返事をする。
「恵子さん、大丈夫よ。恵子さんだと分らないようにお化粧をしてあげる。別人の赤ちゃんのようにかわいらしいお化粧よ。だから、恵子さんは赤ちゃんの振りをしていてくれればいいの。誰かに話しかけられても恵子さんとは分らないようにするわよ。だから安心して」
恵子はまだ、お化粧の基本もよく分らないままだ。大学に行く時もほとんど素ッピンに近いし、今日もお化粧というほどのお化粧もしていない。
「恵子さんにお化粧の仕方も教えてあげるわよ。全然違う人みたくお化粧してお出かけするから安心してね。ベビーカーは双子用のベビーカーを用意してあるけど、それでも大人の体だと小さいかなってそれが心配なのよね。でも恵子さんの小さな体つきなら大丈夫そうよね」
「ベビーカーに乗るのですか」
「そうよ、そんなに心配しないでね。さ、今日はこのくらいにしましょう。返事は夜に電話しますね。それでいいかしら」
「はい、お待ちしています。今日はありがとうございました。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をする恵子の印象はとてもいい。由樹と美樹はまた顔を見つめあって頷き合う。
 

おとなの赤ちゃん返り
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