5.ランチ

「美樹さん、そろそろお昼にしましょう。今日はパスタよ」
恵子がミルクを飲みほしたの見計らったように由樹がお昼ご飯の支度を終えた。恵子はミルクでお腹が張っていて食欲はない。
「恵子さん、マンマは食べさせてあげるからいらっしゃい」
美樹に連れられてダイニングのテーブルに着くと、トマト風味のパスタ料理が並んでいた。その見た目とトマトのいい匂いに恵子は少しは食欲が出てきた。
「最初は、スープね、はい、アーンして」
「自分で食べますから」
スープを入れられたスプーンが由樹の手から恵子の口に近づいてくるが恵子は首を横に振った。今、さっき哺乳瓶にたっぷりのミルクを飲んだばかりで食欲はあまりないし、食べさせられることも恥ずかしかった。
「恵子さんは赤ちゃんだからお口をアーンすればいいのよ。これはお仕事よ」
恵子はアルバイトをしている自分の立場を考えると仕方ないかと口を開ける。由樹は見計らったように恵子の口にスプーンを入れ込む。
「おいしいかな」
オニオンスープの味は恵子に少し食欲を出させる。由樹は続けて2回スープを恵子に飲ますとパスタをフォークでクルクルと巻いている。小さく丸まったパスタを恵子の口に運ぶ。
「いい子ね、よく噛んで食べましょうね」
スープとパスタをほぼ平らげると、由樹はマグカップを手にとった。ストロー付きの幼児用のマグカップだ。
「もう水分は飲めません」
「これはオレンジジュースよ。デザートの代わりだから飲みましょうね」
恵子はストローを口にして少し吸うとさわやかなオレンジの味にオニオンスープやパスタの味が遠のいていく。そのすっきり感に恵子は一揆に飲み干していく。その時だ。食事の前にも軽い尿意があったのが水分を取り過ぎたためか、より強いなって現れた。恵子は思わず体をブルッと震わせると強い尿意を戦うことになっていた。
「どうしたの、寒いの」
「いえ、大丈夫です」
「そう、よかった。少し休憩したら公園へ散歩しに行きましょう。替えのおむつも持っていくからお漏らししても大丈夫よ」
「え、そんな公園でじゃだめです」
「でも、さっきお漏らししてわかったでしょ。お漏らしした布おむつのままでいたら、おむつ被れになっちゃうし、おしっこが冷えてきて体が冷えちゃうわよ」
「お漏らししませんから」
恵子は必死に抵抗の言葉を言うが、それは今我慢しているおしっこへの対応でもあった。公園に行くことも心配だが、もう2回目のおしっこが我慢できないほどになっていることが腹だたしかった。
「だって、恵子さんはさっきお漏らししたでしょ。それでもまたおしっこを今我慢しているんでしょ。だから替えのおむつは手放せないでしょ」
恵子は今我慢しているおしっこの事を気づかれていたことにショックを受けたが、そんなことより今の尿意をどうしようかと悩む。
「恵子さん、さっきと同じようにおむつの中にお漏らししていいのよ。それが赤ちゃんのお仕事だから」
アルバイトをしているんだという立場を恵子はもう一度自分に言い聞かせると椅子に座ったまま、チョロチョロとお漏らしを始めた。だが、少しでも漏らし始めたおしっこはもう止めることはできないでいた。恵子は下を向いたままお漏らししたおしっこがおむつに広がっていくのを感じていた。その様子を由樹は黙ってみているとようやく恵子が顔をあげた。思わず恵子と由樹の目があった。由樹はニコッと笑う。
「おしっこ終わったかな」
恵子は素直に首を縦に振って頷いた。由樹はそのまま少し考えるしぐさをしていたが、あることをひらめいた。
「恵子さん、公園ではおむつ替えは止めましょう。まだ少し寒いものね。その代わり2回分のおしっこを吸収してくれる紙おむつをして公園に行きましょう。それでいいかしら」
「え、ええ」
恵子は外でおむつ替えをされなくなったことに安心すると軽くうなづいた。でも今お漏らして汚れた布おむつをなんとかして欲しかった。汚れた布おむつが肌に着き、さらに少しずつ冷えていくのが分る。由樹は恵子がお漏らししたのは分っているくせにおむつ替えをしようとは言わない。恵子は耐えきれずに由樹に言おうとするが何と言っていいか分らない。
「あ、あの」
「どうしたの」
知らんぷりしている由樹に代わって美樹が恵子の顔を覗く。恵子はじっと見られると何も言えなくなってしまうが、汚れた布おむつはかなり気持ち悪い。
「あ、あの」
恵子は言葉にならない言葉を繰り返すが何と言っていいか分らない。布おむつの場合は紙おむつとは違ってお漏らしを教えるのが早くおむつ離れも早いということを聞いたことがある。恵子はそんな赤ちゃんの気持ちが十分分るような気がした。恵子は勇気を持って言った。
「あ、あの、おしっこが」
「おしっこがどうかしたの」
今までの由樹に比べて冷たくあしらわれているようだ。その先を言うのは恥ずかしいがもう言わないと布おむつがかなり気持ち悪い。
「あ、あの、おしっこが出てしまって」
「そう、よく言えたわね。お利口さンね」
由樹は急に優しくなって恵子の頭を撫でる。その言葉を聞くと美樹が紙おむつを用意してきた。
「恵子さん、これから公園へ行くから約束通り紙おむつを当ててあげるけど、お漏らししたらちゃんと教えなきゃだめよ、いいわね」
「ええ」
恵子はようやく汚れた布おむつから解放されるかと思ったが、まだ試練があった。
「恵子さん、おむつが汚れたらどうしてほしいの?」
「そ、それは」
「そのままでいいのかしら。汚れた布おむつは気持悪いのでしょ」
恵子は頷くが、どうしてほしいかと言われるとそれを口に出すのは恥ずかしい。躊躇しているとさらに由樹は意地悪くなる。
「そのままでいるとおむつ被れになっちゃうわよ。どうしてほしいのかしら」
「そ、それは、おむつを」
「おむつがどうかしたかしら」
「おむつをか、か、替えてください」
「そうね、よく言えました。じゃ、おしっこで汚れたおむつを替えましょうね」
由樹はようやく恵子のオクルミの足の部分から外していく。おむつカバーを外して布おむつをはずしていきさっきと同じように恵子の下半身をきれいにしていく。ようやく濡れた布おむつから解放されたことで恵子はようやく安心した。シッカロールもたっぷり付けられると今度はキャラクターの入った紙おむつが恵子の目の前に現れた。
「ほら、かわいいでしょ。キャラクター入りの幼児用の紙おむつよ」
由樹は恵子にその紙おむつを当てていく。恵子は今までと違ったがさがさ感にびっくりする。布おむつの優しさがないのだ。違和感を感じながらも恵子は紙おむつが当てられていくのを待っていた。
「ほら、できた。今度は紙おむつよ。これなら2回はお漏らししても大丈夫よ。さ、公園に行きましょうか」

 

おとなの赤ちゃん返り
inserted by FC2 system