8.夕飯は玩具の上で

「由樹さん、夕飯の支度お願いね。私は恵子さんの玩具の調子を見ているから」
「今日は私の当番ですものね。恵子さんの面倒お願いします」
美樹は恵子をリビングで待たしていると、どこかで見たようなとても恥ずかしい物を持ってきた。
「恵子さん、これは何だか分かるかしら」
それは小さな椅子のように見えるが、赤ちゃん用のオマルだった。恵子はどういうことなのか心配になると小さく顔をうなづくだけだった。
「恵子さん用に一番大きなオマルを用意したのだけどサイズはどうかしらね。ちょっと座ってみてくれる」
恵子はどうしていいか分からずそのままソファに座っていた。美樹は恵子の心配をなくすようにやさしく微笑む。
「今、ここでオマルにおしっこということではないのよ。恵子さんはまだ、生まれたばかりの赤ちゃんという設定ですからね。オマルを使うのはまだ早いわよ。でもね使えるかどうかサイズをみたいの。ですからそのままの格好でオマルに座ってみてくれる。そのままでいいの。おむつを当てたままでいいのよ。さ、こっちに来て」
恵子はオマルが置かれた場所まで美樹に連れられて行く。オマルの前に立つと恵子はそのまま後づさりしていた。美樹は恵子の肩を抱くと恵子をオマルの方へ引っ張る。
「恵子さん、そのまま座ってくれるだけでいいの。サイズをみたいだけですから」
恵子は仕方なく、その言葉を信じてようやくオマルに跨った。美樹はその瞬間を見据えるとデジカメでシャッターを押していた。
「こっちを見て笑ってね。そう、オマルのサイズはやっぱり一番大きいものでちょうどいいわね。いいでしょ。恵子さん、赤ちゃんはおむつが外れそうになったらそうやってトイレ・トレーニングをするのよ。でもまだ早いわよね。安心してね。今回はオマルは使わないから」
その言葉に恵子はようやく安心するとその安心した笑顔を美樹は写真に収めていた。
「恵子さん、おむつもいいけどオマルでトイレトレーニングをしましょうか」
安心した顔つきの恵子は不安な顔になった。今オマルは使わないと言ったのにどういうことなのか美樹の言葉に恵子はおびえる。
「い、いえ、いらないです」
「でも、赤ちゃんはおむつを卒業するにはオマルでトレーンニングをしなければいけないわよね。早くトレーニングできるようになるといいわね」
恵子が少しほっとするのもつかの間で次に美樹はまた別の物を持ってきた。それはオマルよりも少し大きいが何をするものなのか恵子には分からなかった。
「恵子さん、これも一番大きなものを用意したけれど、これもサイズを見たいので使ってみてくれる」
「使うといってもこれはなに?」
「これはベビーウォーカーよ。歩行器よ。この中に赤ちゃんが入ってね。足が少し床に着くくらいでアンヨの練習をするもの。これもサイズを見たいので恵子さん、中に入ってみてくれる。首が据わって少し大きくなった赤ちゃんをこの中にいれておけば安心だし、アンヨの練習にもなるでしょ。ね、恵子さん、中に入ってみてくれる」
中に入るだけならと思うが、歩行器は恵子にしてみればかなり小さい。それでも美樹に体を押されてしぶしぶ右足から歩行器の中に入ってみる。左足も入れるとその中間に座るところがあるが、とても小さいし、恵子の腰まで歩行器にはいるかどうかも分からないくらいだ。
「やっぱり一番大きな歩行器でも無理かしらね、でもここに足を出して腰を落としてくれるかしら」
恵子は右足を歩行器の前の方に出して伸ばしてみる。腰がぎりぎりで座る部分に入れそうだ。
「そう、そう、そのままその中に座ってから左足も前の方に出してみて」
恵子は少しずつ言われた通りにしてみるとなんとか歩行器に収まることができたが、両足を前に出したままで座る部分が股に食い込んでいる。
「だいぶキツイデス」
「そ、そうね、でも歩行器は使えそうね。よかったわ。そのままでそっと足を引いて膝を曲げてみてくれる。そしたら少し移動できそうよ」
恵子は狭い歩行器の中で足を引いて床に着いてみるとなんとか床を移動できる。しかし歩行器の中はパンパンの状態だ。恵子は足を床に付けた状態で両手を歩行器に置いてそのまま立ち上がろうとして腰を歩行器から少し浮かせた。恵子は恥ずかしいので歩行器から出ようとしたのだ。
「あら、いたずらな赤ちゃんだわ。だめよ、そのままその中にに居なさい」
「だって窮屈だから」
「ごめんなさいね。でもその中で座れるのだから。それにまだ写真を撮っていないわ。もう少しその中で遊んでいてね。由樹さん、恵子さんはぎりぎりだけど歩行器も使えそうよ」
「はーい、見えてるわ。よかったわ」
キッチンから由樹が少しこちらへ近寄ってきて歩行器に入っている恵子の姿を見つめた。美樹はデジカメで写真を撮っていたが急に思いついたように億の部屋へ行くと、男性用のベルトを持って戻ってきた。
「恵子さんは歩行器から勝手に脱出してしまういたずら好きな赤ちゃんだからこれで歩行器に固定しましょうね」
美樹は恵子の腰にベルトを巻きつけるとそれを歩行器の後ろの下部に巻いて、穴あきのバックルでベルトを固定した。
「これならもう勝手な脱出は無理だし、ベルトにも手が届かないでしょう。うん、我ながらいいアイディアだわ」
自己満足に浸っている美樹を恨めしく見つめながら恵子は歩行器から出てみようと思うが確かに恵子の体は歩行器から出ることができないし、固定しているベルトにも手が届かない。
「もう、勝手には出ませんから取ってください」
「別にきつくて苦しいことはないでしょ。このままにしましょう」
美樹は恵子にいろいろなポーズをさせながら写真を撮っていると由樹が声をかけてきた。
「美樹さん、夕飯できたわよ」
その声を聞くと美樹を写真を撮るのを止めて、歩行器に付いている前にある部分から小さなテーブルを引き出した。
「恵子さん、夕飯はこのテーブルで食べましょう。大分小さいけど、食べさせてあげるから。由樹さん、恵子さんはお気に入りの歩行器で夕飯を食べることにしましたよ」
「由樹が歩行器に近寄ってくると歩行器に入っている恵子の姿をまじかにみて微笑んでいた。
「由樹さん、この男性用ベルトを使ってね、恵子さんがいたずらに脱出できないようにしたの。さっき脱出しようとしたからこれはいいアイディアでしょ」
「へえ、いたずら好きの赤ちゃんには丁度いいわね」
由樹はキッチンへ戻り、リビングのテーブルに夕飯を並べていく。恵子の分は歩行器の小さなテーブルに置き、美樹が恵子に食べさせていく。夕飯は蕎麦と野菜のてんぷらだ。美樹と由樹はベジタリアンではなく肉も魚も食べるが野菜だけで食事をすることが多い。
由樹は夜7時から人気番組を見るためにテレビを付けた。恵子も食べさせてもらっては口を動かしながらテレビを見てくつろいでいたが、また尿意が襲ってきた。お腹も一杯になった後ミルクを飲んだためか人気のテレビ番組が終わる頃にはもう我慢できない状態になっていた。
「あの、おしっこをしたいのでここから出してください」
「恵子さん、まだ分かっていないのかしら」
「だって、ここは窮屈だから」
「それは我慢してね。でもそれとおしっことどう関係するのかしら。そのままお漏らしできたら教えてね」
恵子はやはりだめかと気持ちで歩行器の中で踏ん張ってみる。これはアルバイトの仕事なのだと自分に言い聞かせ強い尿意に身を任せる。洋式トイレのようにはいかないが、狭い歩行器の中にいる恵子はおむつにおしっこを漏らし始めた。
「今日は一日何回お漏らししたのかな」
恵子は今日の一日を振り返ってぼんやりとしていると布おむつの漏らしたおしっこは冷たくなってくる。恵子はブルッと震えて小声を出す。
「あの、おしっこです。おむつ替えてください」
「由樹さん、そろそろお風呂の時間よね。ですから恵子さん、お風呂から出たら新しいおむつにしましょうね」
美樹はようやく恵子を歩行器に固定しているベルトを取り出すと、恵子が歩行器から出るのを手伝い、風呂場へと案内した。美樹は脱衣所で恵子の服を脱がしていく。
「一緒にお風呂に入って洗ってあげたいけどそんなに広い風呂場ではないので、自分で洗ってね。中にある物はなんでも使ってください。シャンプーとリンスもあるので髪も洗ってください。それからお化粧も落としてくださいね。今日1日お疲れ様です。ゆっくりと浸かってください」
「はい、ありがとう」
恵子は汚れた布おむつを外してもらうとそのまま風呂場に入った。汚れた下半身をまずお湯で洗い流してから浴槽に入った。十分に温まり体と髪の毛をきれいに洗ってからまた温まって風呂場を出たが、そこにはバスタオルが一枚あるだけだった。恵子は体と髪の毛を拭いていると由樹が現れた。
「良いお風呂を頂きました。ありがとうございます」
「狭いお風呂でしょ。さ、お着替えはリビングでしましょう」
バスタオルを体に巻いたまま恵子はリビングに連れられていく。恵子はリビングのソファに敷かれている紙おむつの上にお尻を置いてそのまま横に寝かされた。
「夜のおねしょでお漏らしのことを考えて紙おむつにしましょうね」
由樹は恵子におむつを当てると赤ちゃん用にデザインされたようなかわいいパジャマを着させていく。美樹は恵子の髪の毛をドライヤで乾かしている。
「今日最後のミルクですよ」
「またですか」
「そうよ。赤ちゃんはミルクが主食なのよ。それにお風呂上がりで喉も乾いているでしょう」
確かに恵子は風呂上りなので喉が渇いているので哺乳ビンの乳首をくわえると以外と早く飲み干していく。恵子には夜はぐっすり寝てもらおうとして由樹は軽い睡眠薬をミルクの中にに混ぜていることなど恵子は知らない。恵子は髪の毛の手入れを受けながら由樹に明日の予定を聞いた。
「明日はお宮参りに行きましょうね」
「お宮参りですか」
「そうよ、赤ちゃんは生まれた後で健やかな成長をお祈りをする儀式よ。本当は今日の午前中かと思ったけど初めての赤ちゃんだから準備もいろいろあって明日にしたのよ」
恵子は美樹と由樹の明日の予定の話を聞いていると自分の赤ちゃんのお宮参りだとは分かっているが、私はただ行けばいいのねと開き直ってしまう。それでも相変わらず恥ずかしいけど、明日が2日目でアルバイトも終わるから我慢我慢と思う。他人事のような話を聞いていると恵子は思わずあくびをした。時計を見るとまだ9時だというのにかなり眠くなった。
「あら、恵子さん、ネンネの時間かな。赤ちゃんにしたら遅い時間よ。もう寝ましょうか」
恵子はいつもの生活にしてみれば寝る時間としては早いと思ったが、この眠気は尋常ではない。
「恵子さん、今日は緊張の連続で初体験が多かったから疲れたのよ。もう、寝ましょうね」
「はい、そうします」
恵子はここで寝てしまいそうなので素直になることに同意した。美樹と由樹は恵子の手を取って恵子のために作られた赤ちゃんの部屋に移動する。
「ここが赤ちゃんのためにアレンジしたお部屋よ。少し狭いけど、ベッドにベビータンスに天井にはメリーゴーランドもあるわよ」
恵子はかわいらしい部屋を見渡すのもつかの間でベッドに座り込む。もう眠気はかなり強い。
「恵子さん、ちょっと待ってて」
由樹が布団を捲るととそこにはシーツの上にさらに小さなシーツがある。
「これはおねしょシーツよ。おむつをしているから大丈夫と思うけど念のためね。それから夜中に何かあったらこのボタンを押してね。すぐに来ますからね」
「大丈夫です。何かあったらそちらに行きます」
「だめよ、赤ちゃんは一人では歩けない想定だから安心のために部屋には外から鍵を掛けますからね。それではお休みなさい」
恵子は何かあったらボタンを押して呼ぶこと、それとこの部屋には外から鍵をかけられて出られないことをもう一度思いだすと、もう眠気には勝てず、寝息をかき始めていた。
 

おとなの赤ちゃん返り
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