自らから実験
(おむつは仕事よ)

芥川秀一


「健一、今日はもう夕方だしこれで別れようか」
「夕飯おごるよ、どこかで何か食べて行こうよ」
「だから健一は鈍感なのよ。もう知らない、私今日は帰るから」
健一はいつものような態度と言葉で由紀と接しているつもりだが、どうも由紀の機嫌はいつもと違う。さっきも由紀が怒ったようにやはり、由紀はたぶん生まれて初めておむつを買ったことに大分興奮しているのだと健一は思った。男でもそういうものを買うことも持つこともやはり緊張が走るだろう。そう思った瞬間健一は健一らしい優しさを由紀に出してきた。
「これは俺が持つから。な、由紀」
健一はあっという間もなく、由紀の手からおむつを取ってしまった。同時に健一の右手はおむつを持ち、左手は由紀の手を握りしめた。
「気がつかなくてごめんね。これは俺が持つから。そして、今日はアパ−トで夕飯を食べよう」
「そうだよね、わかってくれた?健一。そうなら、私がすき焼きをご馳走してあげる」
「本当か?いいねすき焼き」

 ビ−ル1瓶を二人で空けて、すき焼きを食べて一段落した後、健一は風呂に入った。由紀はすき焼きの後始末をしていた。健一のアパ−トで二人で過ごしたことは何回もあるが、今の二人には今日買ってきたおむつのことが頭にあり、なにか言葉少なく淡々と時間が過ぎていった。
「今日は随分歩いたから、長めに湯船に浸かったよ。由紀も落ち着いたら入っておいで」
「え−そうするわ」
 健一はテレビのスイッチを入れてプロ野球中継を見始めたが、「頭の中はどういう風に由紀におむつをしてやろうか、由紀におむつのなかにおしっこをさせるにはどうしたらいいか」などと考えていた。
「由紀には大事な仕事なんだからという言い型が一番いいと思うし、事実、それが仕事になったのだから正当だな。やはりそれで押すしかないだろう。でもやっぱり、いやがるだろうな。どうしようか」
そんなことを考えていて、テレビのプロ野球などちっとも頭に入っていなかった。
「あ−いいお湯だったわ」
由紀の声で健一は我に帰った気がした。すこし、転寝をしてしまったのだろうか。健一の頭はぼんやりしていた。
 健一は由紀がいつお風呂に入ったのかも思いだせないでいた。
「寝ていたの?」由紀は健一を覗きこむように健一の顔に近くで言った。
「きゃ−」
健一は風呂上りの石鹸と女のいい匂いをマジかに嗅いた瞬間、由紀を抱きしめた。
「まだ、早いよ、健一。髪の毛を乾かしてからよ」
「いいじゃないか」
いつもならそのままベッドに入ることもあったが、今日の由紀の態度はいつもと違っていた。
「だめだったら」
「月に一度のお客さんか?」
「そういう訳じゃないけど。。。」
 いつもと違う由紀の態度に健一も素直に従った。これも今日買ってきておむつのせいなのだろうか。
 健一もいつもと違う雰囲気で、これから由紀をどう抱こうか、考え始めた。

 由紀は牛乳を一杯飲んだ後、洗面所に消えて行った。
 健一はさっきから頭から離れないおむつを探し、一通りの説明文を読んだ。別にとくに目新しいことはなく、こういうものかと思ったに過ぎなかった。
そして、紙おむつの封を破り、中から1枚の紙おむつを取り出してみた。
「ごわごわしたぱんつの厚いようなものだな、これは」
 健一は納得したようにしみじみと触ってみた。そして紙おむつを広げてみるとこれはたしかに、ぱんつではなく、やはりおむつと思った。そして女性用ということで、女性の性器の辺りがやはり少し厚くなっていることなどをしげしげとみながら納得していた。
「そろそろ由紀の髪の毛も乾いて来る頃だろう」
 そう思った瞬間、髪の毛を乾かすドライヤの音が止まった。
 健一は広げた紙おむつをあわてて、袋に返そうとしたが、なかなかうまく入らない。
「どうしたの」
由紀に見られてしまった。
「いや、紙おむつはどんなものなのか見てみただけさ」
「へ−、健一も紙おむつの企画をやってみる?」
「紙おむつと言ってもちょっと厚めのパンツみたいなものだな。こう広げてみると、男のふんどしの厚いようなものだし、べつにそんなに意識する必要はないな。これは」
と言いながら、十分に紙おむつを意識し、緊張している自分がわかっていた。
「女性は月に一度のお客さん用に当てるものがあるだろう。あれは一種のおむつだからな。女性はおむつといっても抵抗がないだろう。以前は小さかったようだけど、最近は最高34cmだって。あれはおむつだよ」
「健一、あれは私が企画して会社から金一封をもらった企画商品なのよ。そのとき、一緒にディナ−を食べたじゃない」
「そうだったな。でも次がおむつの企画というのは会社の嫌がらせか?」
「そうなのよ、そう思うでしょ。だから、負けていられないの。また、良い企画を出して見返してやりたいのよ」
「よし、由紀、わかったよ。協力するよ」
健一はそう言うと由紀を抱きしめた。そしていつものように男と女のセックスを楽しんだ。

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 健一は自分の息子についたザ−メンの後しまつをし、たばこを一服吸った。由紀はいつものようにそのまま彷彿としてベットに横たわっていた。
 健一はたばこを吸い終わると、さっき感触を確かめた紙おむつを取り出した。
「由紀、おむつをしてあげるね」
 やさしくそして、自然に言うのが一番と思い、精神誠意考えた一声だった。
 そこに、からかいや、不自然な言葉や態度が入ってしまったら、さっき協力するといったあの感覚がどっかへ行ってしまい、抵抗されると思ったからだ。
由紀は何も言わない。いや、そこで、「おむつをしてください」というのもおかしなものだし、女性の由紀はなにも言わず、無言の受け入れのほうがふさわしい。
 健一は裸の由紀を仰向けにさせた。そして、両足を広げさせた。健一は取り出した紙おむつを広げると、由紀のお尻の所に置いた。
「由紀、お尻を上げてくれるか」
由紀は目を閉じたまま何も言わないし、お尻を上げようともしない。
「困った赤ちゃんだ」
そういうと、健一は一度広げた由紀の両足をまた、閉じた。そして両足のかかとを持って上に上げ、お尻が少し浮いたところにさっと別の手で紙おむつを入れこんだ。
「はいったよ。いい子だね。そのまま動かないでな」
 そして健一はまた由紀の両足を下ろして広げさせた。由紀はなすがままにされ、かつ何も言わない。健一は紙おむつの位置を確かめ、お尻の方からお腹のほうへ紙おむつをセットした。そして両わきから紙おむつを回してお腹の上でマジックテ−プを閉じた。
「セット完了。由紀、どうおむつの感触は?いいんだよ。話さなくてもいいんだよ」
そういうと健一は由紀の隣に横になり、肩を抱いていた。しばらくして健一は言った。
「由紀、おむつの中にお洩らしをしてごらん。そしたらさっきみたいにおむつを交換してあげるよ。そうして体験しないといい企画が浮かばないと思うよ」
しばらく、黙っていた由紀がようやく喋った。
「ありがとう、健一。でも“おしっこ”といって、はいそうですかと出るものじゃないから。今日はもう寝ましょう」
「そりゃ、そうだ。わかった今日は寝ようか」
健一はそう言った瞬間から寝息を立て始めた。
 由紀は健一が寝てからも、自分の下半身に着けてもらった紙おむつの感触を憶え、いい企画のためにあれこれ考えていた。
 しかし、やはり、おむつがおむつである由縁は人間の大小便を受け取るものであるという大命題があるかぎり、紙おむつを身に着けただけでは別にどうということは無い。
 しかし、由紀は健一の前でお洩らしをし、その洩らしたおむつを変えてもらうまでの勇気は無い。今日のところはこれで十分と思いつつ、下半身に着けられた紙おむつをどうしようかと考えていた。
 折角着けてもらった紙おむつだから少しこのままにしておこうかと思うが、普通の下着に着替えて早く寝ようかと思う。
 そんなことを考えながら、下半身の紙おむつの感覚にも気を配っていた。
「折角のいい機会だから、おしっこを洩らしてみようか」そんな考えが由紀の中に出始めた。しかし、出そうと思ってもそう簡単には出る様子は無い。
 由紀は1晩、おむつを着けたまま寝てみるのもいいかと思った。
「そうだ、今夜はこのままで1晩経過したときのおむつの状態を見よう。そして、明日の朝に健一が寝ている間に少し、オシッコを洩らしてみよう」
そう心の中で決めたと思った瞬間、由紀も眠りに落ちて行った。

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 翌朝、由紀は興奮していたのか、いつもより早く目が覚めた。健一はいつものようにまだ寝ている。
 由紀は昨夜、考えていたことを実行しようかどうか、また迷いはじめた。昨夜、着けてもらった紙おむつはまだ由紀の下半身にある。感触も昨日と変わらない。
おしっこだけでも洩らしてみた感触を知るためには、今がやはり一番いいのかも知れない。
健一は寝ているし、朝一番の尿意は強い。
最近の紙おむつであれば、由紀は布団には洩れることは無いと信じ、良いおむつの企画のためだと思って、洩らしてみることにした。
しかし、いつもの布団の上で、しかも隣には健一は寝ているせいもあり、踏ん張ってもなかなか出ない。
 由紀は自分の下半身の紙おむつをもう一度確認し、洩れることは無いと思いつつ、心配なので、さらにバスタオルを敷いて、もう一度踏ん張った。
 健一が起きたら恥ずかしいから、早くやってしまおうと必死に踏ん張り、ようやく出してしまった。
出した後、その暖かい感触が、だんだん紙おむつのごわごわと混ざり、だんだん冷えてくるのが判った。
「もういいわ、ここまで感じればもういい」
由紀は急いでシャワ−を浴びに行った。
 

 
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