誓約書
 
メアリーは寝室へ向かったと思ったら、すぐに帰ってきて、和夫に紙を一枚渡した。その紙はいつのまにか印刷したのか、きれいな文字でワープロしてあった。
 
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誓約書
甲(相沢和夫)は、乙(相沢メアリー)に対して下記を誓います。
 
1.甲は毎日おむつを当てて生活します。
2.甲はおむつの中に大も小もお漏らしをし、乙の指示に従っておむつを替えてもらいます。
3.甲は、おむつ被れになったなどの障害が発生しても、乙の指示に従うものとします。
4. 甲はおむつを替えてもらう間はもちろん、ミルクも飲ませてもらうときも、洋服も全て赤ちゃんになりきります。
5.甲は、乙の許しを得るまでは、これらを繰り返します。
6.その他については、別途協議します。
 
平成21年7月1日
東京都七王子市ひがし野 X-YYY-ZZ      相沢和夫        印
 
東京都七王子市ひがし野 X-YYY-ZZ      相沢メアリー      印
 
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「和夫、読んだ?」
和夫はいつの間に契約書のような文書を作成していたメアリーの勉強に恐れ入る。簡単な文書ではあるが、契約書の重々しい雰囲気があり、それでいて書かれていることは現実離れしている。しかし、メアリーはこれに同意して、捺印をしろ、ということを言いたいのだろう。
「よ、読んだよ。日本語をよく勉強しているね。でも赤ちゃんになりきるというのはどういうこと?」
「おむつを当てるときや替えるときは赤ちゃんのようにかわいくしてもらわないと、臭いものをきれいにするのだから、気が滅入るでしょ。そして、おむつを当てる人は赤ちゃんのようにミルクも飲んで赤ちゃんになりきってほしいのよ」
和夫はおむつだって受け入れがたいのに、まるでオママゴトのようなことをやらされるのはたまらない。その1行だけでも削除してもらおうかと思う。
「メアリー、赤ちゃんになりきるというオママゴトのような1行は削除しようよ」
「ノー、この内容でないとバランスが保てないからだめです。いやなら、破きますよ」
「わかったよ」
 「OK、じゃ、ここにペンがあるから、サインして」
「だって、名前が印刷されているからサインは要らないだろう」
「ノー、サインは欧米では本人確認の重要な手段だから。世界的に通用する契約書には皆、サインするのよ」
「わかったよ」
和夫は躊躇しながらもペンを握ると、印刷された自分の名前の下に自分の名前を漢字で記入していく。和夫は字はあまりうまくないが、少しヤケクソになりながらも目の前にいるメアリーを意識しながら丁寧に書いた。
「OK、次はここに朱肉があるから、親指を出して、印のところに拇印を押して」
「日本では三文判のハンコで十分だよ」
「ノーね。100円ショップで買えるようなハンコでは意味ないものね。本人確認にはならないから」
「でも、サインしたじゃないか」
「いやなの?、本当は誓約書を守る気持ちはないのでしょう?」
「守るよ」
「じゃ、親指を出して、ここに指紋印をついてください」
和夫はここまでやる必要はないだろうと思いつつ、じぶしぶ親指を出すと、朱肉の赤い部分に親指を乗せる。そして誓約書の印と書いてある部分の右側に親指を付く。メアリーはすかさずティッシュを出すと和夫に渡す。和夫は朱肉のオレンジ色汚れた自分の親指をきれいにしていく。こういう気の付くところはメアリーはいい家内と思う。だが、この誓約書に書いてあることを本当に実行しようとしているのか、疑問に思うがここまでやる以上、相当怒っていると思う。
メアリーは、誓約書を受け取ると、今度はメアリーの分のサインと拇印を要領よく実施する。
「OK、もう1枚ね」
「メアりー、もういいよ、1枚で」
「ノーね。契約書は双方が同じものを1枚ずつ持たなくてはだめよ」
「俺の分は要らないよ」
「だめです、契約ですから」
欧米は契約文化というが、こういうことにも契約と言われると、日本人には馴染めない。が、メアリーのいいようにしてやるしかない。和夫はもう1枚の誓約書にもサインと拇印を押す。
「OK、契約成立ね、さ、早速おむつを当てますから、ズボンとトランクスを脱いでください」
「今からか?」
「そう、早く、今支度しますから」
 和夫は、踏ん切りがつかないままズボンを脱いだ。ベルトを緩めはじめたところを見たメアリーは奥の部屋へと消えた。和夫はズボンは脱いだが、トランクスはそのままでいた。するとメアリーが紙おむつのパッケージを抱えて戻ってきた。和夫を見ると、トランクスを脱ぐように急かす。
「メアリー、本当にやるの?」
和夫はまだ、現実的にこれから何が始まろうとしているのか、本当に始まるのかが信じられない。しかし、メアリーは20枚入りの紙おむつのパッケージを開けると中から1枚の股おむつを取り出して、和夫の前に見せ付ける。
「大きいわね、赤ちゃんのおむつに比べると大きいけど、仕方ないわね。かわいらしさが足りないけど、仕方ないわね。さ、おむつを当ててあげるから」
和夫もその広げられた大きな股おむつを見ると、赤ちゃんのおむつしかイメージにないので、一瞬驚く。しかし、和夫の目の前に広げられた股オムツは紛れもない紙おむつだ。色は少し青い色でかわいい赤ちゃん用のおむつとは違うが、形はおむつそのものだ。最近はパンツ式の紙おむつも販売されているので、和夫はそのパンツ式をイメージしていたが、広げられたおむつは、両足をあげられて、お尻の穴まで見られながら当てられる股式おむつだった。
「和夫、早くトランクスも脱いで」
「え、でも」
「でも何?」
「あそこをこんな昼間の明るい場所で見られるのは恥かしいから」
「何、言ってるの。夫婦でしょ」
「そりゃ、そうだけど」
ぐずぐずしている和夫を見ていると、メアリーは決めたとばかりにいきなり和夫に近づくと、トランクスに手をかけて一揆に下に下ろして脱がしてしまう。
「あ、見えちゃう」
「いいのよ、隠さないでも」
メアリーは脱がしたトランクスを横に片付けると、目の前にさきほど、広げた股おむつを広げる。そして、シッカロールの蓋を開けると、準備完了とばかりにそこに正座する。メアリーは和夫の手をとると、和夫を股オムツの上の座らせようと誘導する。和夫はメアリーのなすがままに股オムツの上に座らせられた。
「さ、横になって」
メアリーは和夫を横に寝かせると、足側の反対側に回り、和夫の両足を広げさせる。相変わらず、和夫の両手は和夫の大事な場所を隠し続けている。メアリーはその手を払いのけた。そして、和夫の両足を持つと、上に上げ始める。が、大の大人の両足はやはり重い。そこで、片足づつあげると、和夫に自分の手で持つように言う。
「和夫、赤ちゃんとは違うから、自分の足は自分で持ってください」
メアリーは片足ずつ持つあげると、その足を和夫を持たせること、ちょうど赤ちゃんのオムツ替えと同じ体制にすることができた。
「和夫、なぜ、大人の股はこういう風に薄黒くなってしまうのかしらね。でも、大丈夫、おむつ被れがひどくならないようにするためにも、たっぷりとシッカロールを当ててあげるから」
メアリーは和夫の大事な場所はもちろん、お尻の穴、そしてお尻全体にもこれでもか、シッカロールを塗りたくっていく。
「くすぐったいよ、メアリー」
「もう、終わるわよ。少しはきれいになったわよ」
次にメアリーは股おむつに手をかけて、和夫に当てていく。股から通したオムツを確認すると、和夫に手を離すように言う。和夫の両足を下ろしたメアリーは、股オムツをおへそのほうへセットする。そして両側からも羽のように伸びた股おむつをセットすると、おへその辺りで、マジックテープで固定する。
「ほーら、できた」
「なんか、ごわごわするよ、メアリー」
「大丈夫よ、きちんとセットしてあるから。じゃ、ズボンを穿いてもいいわよ」
和夫はその言葉を聴くなり、起き上がるとすぐにズボンを穿いた。いくら家内とはいえ、おむつを穿いた自分の姿を少しでもはやく隠したかった。ベルトまで締めると、ソファまで歩いて座ってみる。
「和夫、見た目はぜんぜん気づかないよ。おむつを当てているなんで見えないから安心してね」
和夫は、見ための心配もしていたが、やはり、おむつの感触に不思議な感覚を覚えていた。お尻をゆったりと包み、大事な場所にもスポンジを当てているようだ。紙おむつのためのごわごわした感触は今ひとつだが、おむつを当てた感覚を始めて認識した。はるかかなたの赤ちゃんの時代にはおむつを当てられていたのだろうが、自意識に目覚めてからの初めてのおむつの感触を味わっていた。そこには、恥ずかしさもあるが、安心感というものが自然と感じれることに和夫はすこし安堵していた。
ソファに座ってふと壁に掛けてある時計を見ると、もう夕方の4時だった。メアリーも時計を見ると、いつものように和夫に声をかける。その喋り方やしぐさはいつものメアリーのかわいさだ。
「和夫、夕飯の買い物に行きましょう」
いつもだったら、歩いて10分ほどの場所にあるスーパーまで、メアリーと一緒に手を繋いで歩いていく。今日もそういう感じだが、下半身の感覚がいつもと違う。おむつを当てていることを悟られたらどうしよう、という心配がある。しかし、メアリーはいつもと同じように、スーパーに捨てに行く再利用可能なペットボトルや牛乳パックなどを整理している。その後ろ姿を確認すると、和夫はズボンの下に当てられている紙おむつを手で確かめてみる。そこには、確かにごわごわした紙おむつが存在していることがわかり、それがいつもとの違いだと自覚する。
「和夫、あの誓約書の内容は覚えた?」
「もう、おむつを穿いたでしょ」
「そう、おむつを当ててあげたわ。でも契約書にはおむつだけではなくて、ミルクも飲ませてもらうときも、洋服も全て赤ちゃんになりきります、と書いてあったでしょ。だから、買い物に行って哺乳瓶でしょ、おしゃぶりでしょ、それに赤ちゃんの洋服でしょ、いろいろ赤ちゃんに必要なものも買わなきゃね」
「そんな大きな赤ちゃんの洋服は売ってないよ、メアリー」
今度は和夫が一本を取ったと誇らしげに言う。メアリーも一瞬考え込むと、自分で納得したように顔を縦に振る。
「そうね、大人用の赤ちゃんの洋服は売ってないわね。でも、当てがあるわ」
メアリーはクスっと笑う。メアリーの育ったイギリスではアダルトベビーという言葉が日本よりよく知られている。そしてアダルベビーに必要なものは男性用はもちろん、女性用も以外と簡単に手に入れることができた。もちろんメアリーはそういうものを買った経験はなかったが、少なくとも、父親の経営する病院内でそういうものを実際に目にしたことがあった。メアリーは父親に相談すれば容易に手に入れることができると思っていた。
そして、今回の和夫への罰についても父親との相談の結果だったのだ。母親とも意識が合っているし、電話をすれば必要なものはすぐに送ってくれると思う。
そんな会話をして歩いているとスーパーが目の前にあった。いつもの見慣れたスーパーだが、人ごみが増えてくると、和夫はおむつを当てていることが知られるのではないか少し、緊張する。
「和夫、あのドラッグストアにまず行きましょう」
スーパーの中には、あの有名なドラッグストアが店を構えている。メアリーは赤ちゃん用品売り場にいくと、哺乳瓶、粉ミルク、おしゃぶりや小さなおもちゃなどを手にとっては籠に入れていく。
「メアリー、そんなに要らないだろう?」
「一通りの物を買っているだけよ。赤ちゃんの和夫に欲しい物があれば買ってあげるわよ」
「そんなこと、言うなよ」
「え、こんなに可愛い紙おむつが僕ちゃんも欲しい?でも、サイズがないのよね。店員さんに聞いてみましょうか?」
メアリーはからかうように和夫に言うと、和夫にニコッと笑う。
「メアリー、おれは店の外で待っているから」
和夫はこれ以上、店の中にいると何を言われるかわからないと思い、急に店を飛び出していく。メアリーは仕方なく、清算をすると、店から出てきた。
「あとは夕飯の買い物よ。それと明日、ジーンたちがお昼に遊びに来るの。その食材もね」
「明日の日曜の昼飯に?」
「ええ、そうよ、何か用事があるの?」
「いや、特にないからいいよ」
「赤ちゃん、かわいいわよ。ミルクのにおいがするの。抱いてみてね」
そんな会話をしながら、食材を買ってから家に帰った。が、その後は、特に変化がない時間が流れた。メアリーはいつものように夕飯の支度をすると、二人で一緒に食べ、風呂に入って寝る。だが、1つだけいつもと違っていた。
夕方、おむつを当てられ、買い物に行き、夕飯を食べる前に和夫には尿意が出てきた。しかし、おむつの中にお漏らしをする勇気はなかったし、メアリーに行ってもトイレには行かせてくれないと思った。だから、風呂の中にしてしまえと、尿意を我慢していた。そして、風呂の時間が来ると、風呂の中で、すっきりしたのだ。だが、いつもと違うのもう一つあった。
それは、風呂に入った後だった。風呂に入った後、脱衣所でいつものようにパジャマを着ようとしたが、籠の中には何もない。いつもメアリーが着替えの下着とパジャマを用意してくれているが、今日は何もない。仕方なく、バスタオルを腰に巻いてリビングに来ると、メアリーが手招きをする。
「おむつはまだ、汚れていないから、さっきのおむつで我慢してね。紙おむつも高いし、地球温暖化にも貢献してね。ここに座ってね」
メアリーはきれいに敷いてあるさっきの紙おむつを指さして言う。早くしないと風をひくわよ」
和夫は仕方なく、さっきの紙おむつに腰を落とすと、夕方と同じ体制にされて、おまたにたっぷりのシッカロールを当てられる。紙おむつをまた、当てられて、パジャマを着るとようやく、落ち着いた。
同じことは、次の日曜日の朝も行われた。さすがに、次の日の朝には新しい紙おむつを当ててくれたが、汚されていない紙おむつを不思議そうに見ながらもメアリーは丁寧におむつを和夫を当てた。和夫と言えば、朝起きてからの尿意と便意が強くなる中で、どうしたものかと考えていた。朝飯を食べて少しゆっくりしていると、メアリーは急に行動を開始した。朝飯の片づけに洗濯に、ジーンたちが来るための掃除などだ。和夫は、洗濯物を乾しにメアリーがリビングからいなくなった隙に、トイレに駆け込んだ。トイレでは、ズボンを下ろし、股おむつを外し、大も小も勢いよく出し、すっきりすると、股おむつをどうやって元通りにすればよいのかに気づく。パンツ式なら簡単だが、股おむつは1人で当てるのは難しい。
が、悩んでいても仕方ない。メアリーには言えないから、思考錯誤をしてみる。
股おむつを広げ、お尻の部分を壁に当てて、後ろ向きになってお尻で股おむつを抑える。そして、股へ手を伸ばしておへそ側におむつを持ってくる。そして、両足を閉じておむつを抑え、両側の羽の部分をおへその方に引っ張ると、以外と簡単に股おむつを1人で当てることができた。ほっとして、ズボンを穿き、リビングに戻ると、幸いメアリーはまだ、洗濯物を乾している。
そして何事もなかったようにいつものように日曜日が始まった。昼ごはん時にはジーンたちがやってきて、たわいもない話で笑ったり、かわいい赤ちゃんの世話をして、平和な時間が過ぎて行った。
 
大人の赤ちゃん返り
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