トイレ禁止

(リストラだ、私は赤ちゃんになりたい)


次の日は日曜日にも関わらず和夫は朝7時にふとんの中で目が覚めた。昨日ウィスキーを飲み過ぎたのか、二日酔いではないが、尿意が強く、かつ喉も乾いている。和夫はまだ朝の7時なのでもう少し寝たいと思うのだが、高ぶる尿意に我慢できずトイレに行こうと思い起きあがった。
それまで光江は寝ているものだと思っていたのが、光江は声をかけてきた。
「かずおちゃん、おはよう、おしっこでしょ、さっきからもぞもぞしていたから」
和夫は光江の声を無視してトイレに行こうとした。
「かずおちゃん、昨日の約束もう忘れたの。うんちもおしっこも昨日お洩らししてママがおむつ交換してあげたでしょ、そこでしなさい」
和夫は酔っていたとは言え昨日洩らしてしまい、おむつを交換させられたことははっきり覚えていた。しかしその後の言葉のトイレ禁止というのは簡単には受け入れられない。和夫は布団の上に起きあがり光江の声を聞いていたが、このまま強引にトイレにいくか、それとも光江の言うように赤ちゃんのようにこのまま垂れ流しをやるのか迷っていた。大の大人がおむつをしたまま、またおむつを濡らすのかと思うと嫌気がさしていたが、尿意も強くなってきている。昨日は酔いもあり、かなりの尿意と便意と光江が覆い被って来て我慢に我慢のものが出てしまったが、今は違う。やはりトイレに行こうと思い立ちあがろうとしたところ光江がまた覆い被ってきた。
「かずおちゃん、あなたは昨日、ママと約束したの。それに私のお願いを効いてくれると約束して私の体を奪ったのでしょ、はやく、そこでしなさい」
和夫はまたかと思った。またあの約束と女の武器を出して来やがった。どうしようかとそのまま寝ながら光江の体を抱きしめていた。
「観念するのよ、かずおちゃんは私の赤ちゃんなのよ、約束守れるわね、はやくおしっこしなさい」
これでもかという光江の赤ちゃん言葉と高ぶる尿意に和夫はもうどうにでもなれと、踏ん張ったが、寝ながらの小便はなかなか難しいものである。
「寝ながらじゃ無理だよ、トイレに行くから」
「昨日はできたでしょ。続けてやらないとだめなのよ、もう一度踏ん張って、はいチッチですよ」
和夫は光江の赤ちゃん言葉と激しい尿意に負けてついにしてしまった。プーンとアンモニアの臭いが立ちこめた。
「いい子ね、おしっこできましたか、もう全部出ましたか?」
おしっこを洩らしたと知ると光江はこの前のようにすぐにはおむつを交換しようとはしない。和夫の体から離れると着替えをし、雨戸を開けた。
「今、おむつを交換しますからね、今準備をしますからね」
和夫におしっこを洩らさせておいて光江はトイレのほうに消えて行った。
和夫はだんだん冷たくなってくる腹を心配しながらもそのまま寝ながら待った。
「さ、おむつを交換しましょう」
そう言って布団の隣に新しいおむつとおむつカバーを用意した。そして和夫のネグリジェを脱がし、いつものように座らせて汚れたおむつを外した。やはり、ウェットティッシュできれいにし、シッカロールをつけてから新しいおむつをあてた。そしてロンパースに涎掛け、そしてベビー帽子をかぶせた。
「うんちが出ていないようだけどうんちもおむつの中にするのよ」
うんちは昨日の夜に出ていたので、今は正直出る様子はなかった。和夫はまた赤ちゃん姿で布団に潜り込んだ。
それからしばらく和夫は寝入ってしまった。1時間近く寝た後に今度は便意で目が覚めた。
光江はそばにはいない。和夫はトイレ禁止の約束もあったが正直大きい方のうんちはトイレで済ませたかった。光江がそばにいないのをもう一度確認してトイレに行こうと起きあがった。
「かずおちゃん、起きた?」
全くどこかで監視でもしているのか、タイミングの悪いときに光江は現れる。
「おむつ洗濯してきましたからね、外へ干すのは問題あるから、かずおちゃんの部屋に干すわね」
そういうとおむつを干し始めた。和夫は光江の作業が終わればまたここから離れるだろうと思いトイレに行くのは後にすることにした。光江は洗濯したおむつを干し終わると和夫の枕元に座り、和夫の姿を眺めた。
「かずおちゃん、うんちは出た?さっきトイレに行こうとしたでしょ」
光江は和夫の頭を膝にのせ、さらに言う。
「さ、ここでうんちもするのよ。うんちしたらもう昼ご飯よ。お昼食べて、今日は天気もいいからお散歩しましょ。だから早くうんちしなさい」
散歩と聞いて和夫はうれしくなった。こんなおむつの干してある部屋では気が滅入る。かといって素直にじゃ“うんちします”ともいかない。和夫は再度光江に言ってみた。
「臭いからトイレでしてくるから」
「まだ、わからないのこの子は、さっきから我慢しているのでしょ、さっとしなさい」
光江はまた半狂乱に近い顔の表情になった、さらにおいたをした子供をしかるように和夫をしかるのであった。和夫はなぜここまで、こうもなれるのか不思議でもあったが、同時に光江、いや女の怖さを味わっていた。昨日うんちをしてしまったように今も洩らすのかと思うと嫌だったが、光江の言葉の力からか、ママである光江に甘えようかという気持ちになってきた。そして踏ん張ってはみるが、なかなか出るものではない。
「そう、がんばって、うんちして」
光江はまたママ言葉に徹してくる。和夫はリストラのこと、再就職が決まらないことなどを考えて赤ちゃんになりたい気持ちを高ぶらせていた。そこに光江の赤ちゃん言葉が降りかかってくる。和夫はもうトイレは諦めた。そして踏ん張ってとうとう洩らしてしまった。光江はそれを確認し、また焦らしながら、時間をかけておむつ交換をしていった。
「よく、がんばったわね、いい子よ。いま、きれいきれいしますからね。きれいにしたらお散歩へいきましょう」
和夫もおむつ交換には慣れてきていた。恥ずかしい気持ちは十分にあるのだが、それより光江のママへの徹しぶりに負けてしまい、いやなリストラのことも忘れられる。
おむつ交換が少しずつされる中、和夫は本当に赤ちゃんとしてママである光江に甘えたかった。しかし、次の光江の言葉にまた、現実へ引き戻されてしまった。
「はい、おむつはきれいになったし、新しいロンパース、それに涎掛けも着けたし、近くの公園まで散歩へいきましょう。はい、立っちしてください。それに公園でいい空気の下でミルクも飲みましょうね」
和夫は困惑したが、言ってみた。
「俺も外へ行きたい。俺の服に着替えるから」
光江も困った顔をして言い返してくる。
「何を言っているの。もうトイレへは行けないから、おむつは必要でしょう。それにおむつをしている赤ちゃんのかずおちゃんなんだから、赤ちゃんの今着ているロンパースでいいでしょう。早くそのままでいきましょう。後、お靴はこの前履いてみてはいないけど、デパートで赤い女の子用の靴を買ったでしょう。あの靴を履いてみてね」
和夫はおむつとかロンパースとか光江の前で着ることには慣らされてしまったが、この姿で外へ出るなんてとんでも無いと思った。
「冗談じゃないよ、いいかげんにしてくれよ。この姿じゃおむつは見えてしまうし、この毛の多い足をだして赤ちゃんの格好で外へ行けるわけがないだろう。恥ずかしくて仕方ないじゃいか」
和夫の抵抗に負けない抵抗が光江から出てくる。
「あなたはもうおむつをしてこの前買い物へ外出したでしょう。でもおむつが見えるのが恥ずかしいなら、この前買った白いタイツを履きましょう。それからロンパースが恥ずかしいなら、そうねお着替えしましょうか。仕方ないわね。この前よりかは長いスカートを買ったでしょう。あのスカートでこの白いタイツをはけば女の子でしょう。ぜんぜん恥ずかしくないわよ」

 
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