女児装
(リストラだ、私は赤ちゃんになりたい)

光江はこの前の買い物で買ってきた女の子の洋服を出してきた。前よりかは長目のスカート、セーラムーンの赤いトレーナそして白いタイツだ。
「さ、お着替えして散歩、散歩」
光江は上機嫌で和夫のロンパースを脱がそうとする。
「着てやったっていいけど、そんな洋服じゃ外へは出ないからな」
和夫は反撃する。少しは長めのスカートのようではあるが、膝上5CMはあるだろう。デパートですぐには逃げたが、光江はスカートを和夫に当てていたのを覚えていた。かわいい女の子のスカートが捲れてパンツがちらっと見えるのはいいが、和夫のスカートが捲れたら、白いタイツを履いていたとしても異様に膨らんでいるおむつが分かってしまうかもしれない。それに男の髪方で、無精ヒゲがあり、いかにも男の顔で赤いトレーナにミニスカートもあり得ない。恥ずかしくて出れるわけが無い。和夫は外へ出れないわけを延々と説明した。
「でもね、かずおちゃん、結婚、金、法律違反以外だったらなんでもしてくれるという約束で私の女の子の赤ちゃんになってくれたんだから。そしておむつだってつけたまま買い物へ行けたでしょ」
「そこまでは君の言う通りやってあげたけど。そしてそういう約束もあったけど、こんな女の子の格好は勘弁してくれよ」
和夫もだんだん情けなくなってきた。光江の前ならまだしも、そういう格好で外へ出ることはとてもできなかった。そんな押し問答が光江と和夫の間でしばらく続いていた。
「かずおちゃん、男の芸能人が女装して写真にとってその芸能人が誰だが当てる番組知っているでしょ。お昼のワイドショーのイイトモよ。」
和夫も毎日面接が入るわけではないので、人気番組のイイトモは知っていたし、その女装のコーナも知ってはいた。それに日曜日の午前中にも1週間分をまとめて再放送してたのでよく知っていた。
「男の人でも化粧すればあんなにかわいい、あるいはきれいな女性の姿になっていい写真がとれるのよ。そうよそんなに顔のことが心配ならば、ママがかずおちゃんにお化粧してあげる。それなら男とは思われないし、女の子がスカート履いてもぜんぜんおかしくないでしょ」
光江はまた、新しいアイディアが出てきたことに満足しながら上機嫌で、今度は着替えの他に化粧の催促までしてくる。
「おれは芸能人ではないんだから」
「芸能人も1人の人間でしょう。あのクイズなかなか誰が女装しているのかあたらないのよ。ヒントを出して出してようやくあたってくるのよ。かずおちゃんだってお化粧したら誰だがわからないし、かずおちゃんの恥ずかしいという気持ちもこれで解消ね。ぜんぜん恥ずかしくないのよ。わかるでしょ」
光江は和夫の恥ずかしい気持ちを取り除いてやってこれで散歩へ行けると思った。和夫は本当はおれも女装してあのテレビのワイドショーみたくやりたいけれど、そんなことできるわけが無いと思っていた。それが今目の前で現実になりつつあった。本当はやってみたいが、やってやってと光江に催促できるわけも無い。和夫はそんなことを考えつつ光江の言うなりになっていた。
ベビー帽、涎掛け、ロンパースを脱がされ、おむつ姿になった。その次に白いタイツを履かされた。
「さ、これでおむつは直接には見えないでしょ」
次に、赤いトレーナとミニスカートを履かされた。それから無精ヒゲを剃り、顔に薄い化粧をし、口紅を塗らされた。
「こっちの三面鏡のところに来て御覧なさい」
和夫は自分の姿を見て思わず笑いたくなったが、光江は真面目な顔で三面鏡を覗きこんいる。
「さー、女の子の完成ね、お散歩いきましょう」
和夫はまだ、うっすら残るひげの跡や、髪の毛が男であることなどをいいわけにして外へ出ることには賛成しない。
「かずおちゃん、まだ恥ずかしいの。あなたの恥ずかしいと言ったところは全部取り除いてあげたでしょ」
和夫は髪の毛のことやうっすら残るひげの跡などを言った。それは逆に後これだけを解消してくれれば外へ出てもいいよというような肯定の話し方にも成っていた。
光江は三面鏡の引きだしから昔使っていたおカッパ用のかつらをとりだした。
「かずおちゃんに合ったかつらを買ってあげたいけど、今日はこれをしてみて」
和夫の頭はやはり女性の頭の大きさより大きかったが、それでも光江はなんとか、和夫に被らせてしまった。そしてヒゲももう一度念入りに剃り、化粧を濃く濃くしていった。
あうでもないこうでもないと化粧をし、外は少し暗くなっていた。
「これでいいでしょ。かずおちゃんのリクエストは全部聞いたのだから、行きましょうね。外も少し暗くなって来てしまったわ」
和夫は別に和夫の要求を全部聞いてくれたら外へ行くなんて約束した覚えは無かった。しかし、目の前の和夫はさっきよりかは十分に女の顔になっており、自分でも驚いていた。
 

 
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