告白

(リストラだ、私は赤ちゃんになりたい)

光江は台所に行って粉ミルクを作っているようだ。1人にされて横にあった鏡で自分の姿を見てみた。おむつも論外だが、そのおむつが見え隠れするくらい短いスカートをはかされ、胸にはセーラムーン様。リストラで暗くなった自分が急に滑稽な姿に見えてきた。
ここまでされればもうなにも怖くないという気持ちに近かった。
光江が哺乳ビンにミルクをつくって持ってきた。
「かずおちゃん、ミルクができたわよ、ここに横になって」
光江は正座し、和夫は光江の膝のところに横になった。光江は和夫の頭を右手でなで、左手に哺乳ビンを持って和夫の口へ持っていった。
「さ、おいしいわよ」
和夫はもうだまって口をあけ、ちゅーちゅーとミルクを吸った。光江はそんな和夫を彷彿として見ている。しばらく飲んだ後、和夫は口を離し、言った。
「牛乳のほうがまだ美味いね、もういらないよ」
「仕様が無い子ね、もう少し飲まなきゃだめよ。じゃ、あとは母乳にしましょう」
そういって、光江はブラウスをあげ始めた。そしてブラジャをあらわにすると、左側だけを上げ、光江の豊かな乳とその乳首を出した。
「さー、後は母乳よ、たくさん飲むのよ」
光江の体を抱いたときとはまた違う、なんとも目の前で見る光江の乳には迫力があったが、かまわず口に含んだ。
「そーたくさん飲むのよ」
そう言われていくら吸っても光江の乳首から母乳が出るはずがない。
「もういいだろう」
しばらくして和夫は言った。
彷彿としている光江はかまわず和夫の口をまた乳首に押し付けた。
「もう少し飲むのよ。ねーかずおちゃん何かあったの。ママにはちゃんと言えるわよね」
おむつをされ、母乳を吸うことに飽きてきたとは言え、なんともいえないあかちゃんの気分になっていた和夫は素直な気持ちになっていた。
「何があったの、ママが解決してあげる、いい子だからママにだけ教えてね、かずおちゃんはいい子でしょう」
あかちゃんの気持ちとそんなやさしい言葉に和夫はついに言ってしまった。
「俺、リストラされてさ、もう3カ月も次の就職が決まらないんだ」
「まあ、そうだったの。かわいそうなかずおちゃん、ママがやさしくしてあげますからね、大丈夫よ、おむつカバーもロンパースも作ってかわいいかわいいしてあげますからね」
和夫は答えなかった。しかし、あかちゃんの格好をして、やさしい言葉をかけられ、心は平静をとり戻していた。そんな安堵感から今度は光江に聞いてみた。
「なー、どうして大人のしかも男の俺にこんな格好をさせたいの、もう怒ってはいないよ。君のママさんぶりはたいしたもんだ。本当にあかちゃんになった気分だよ」
和夫は光江をほめつつ、光江の心境を探った。
「そうね、私は25歳で恋愛結婚したの。子供も直ぐにできて幸せ一杯だったわ。診断の結果あかちゃんは女の子でね。でも来月には出産というときに夫が交通事故で死んでしまったの。半狂乱になったわ。それに主人も楽しみにしていた女の子用のおむつ、おむつカバーやロンパースもみんな自分で作って用意をしていたの」
光江は涙を流しながら話した。
「主人が無くなったショックと疲労が溜まったんでしょうね、埋葬も終わったころ、急におなかが痛くなって急いで、病院に行ったんだけど、あかちゃんも逝っちゃったのよ、あの時はもう死にたいと思ったわ」
「そう、大変だったね」
「一段落して、落ち着いたころ、この店をはじめたの。でも、もう男性、結婚はこりごりになってしまったわ。別に男性にひどいことをされたわけではないけれど気持ちもわかるでしょう。でもせっかく用意したあかちゃんの洋服なんかはみんな一緒に葬ってしまったんだけど、あかちゃんをあやしたいという気持ちだけはずっとあったのよ。でも結婚、出産はこりごりという気持ちが強くて、でもあかちゃんはいない、そんな矛盾の気持ちがずっとあったのよ。そしてあなたに出会って、あなたならきっと私のあかちゃんになってくれると直感したの」
和夫は同情したが、今の自分のなさけない格好にも納得がいかない。かといってあかちゃんのようにやさしくされてこんなにおだやかに光江との会話を楽しんでいる自分もまた一つの現実であった。
しばらく沈黙が続いたが、和夫も光江もお互いの状況を理解し、今のこの姿がお互いの夢をかなえた状況ではないかと思っていた。
「さー、かずおちゃん、もう今日は寝ましょう。おむつはぬれていない?大丈夫?」
光江はスカートの下へ手をのばし、紙おむつの脇から和夫の急所を握った。
「おしっこは大丈夫ね、さあ、いい子ね、寝んねしましょう」
 

 
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