女の子に変身

翌朝、恵子はいつもより少し遅めの9時に起きた。和也はまだ寝ているようだ。朝食を食べて女の子の身だしなみを整えて11時には予約をした美容院に行く必要がある。
恵子は自分の顔の化粧を終えると和也に声をかける。
「和也、約束通り女の子にしてあげるから早く起きなさい。いろいろやることがあって忙しわよ」
「まだ、9時だろ?」
「そうよ、早くしないと間に合わないわよ」
そう言うと恵子は朝食の準備のためキッチンに向かった。
和也は「間に合わない」という言葉に翻弄された。何に間に合わないのかが分からない。その言葉が刺激になって一気に睡間が飛んでいく。トイレに行き顔を洗うとコヒーのいい匂いがしてくる。朝食はいつも洋食だ。トーストにハムエッグに炒り立てのコーヒーは目と胃袋を活性化してくる。
「今日は、最小限の女の子になってからショッピングに行きましょう。そして少しだけ下着、洋服、化粧品、その他小物類も一通り買ってあげるから。そのあとは自分で好きなものを買いなさい。だからおねえちゃんのものには手をださないでよ」
「わかってるよ」
和也はもう痴漢扱いされるのはこりごりと思っているので、今日は素直に姉の言うことを聞いておこうと思っている。
「あら、もう10時になるわ。もう朝食はおしまいでいいわね」
和也は2杯目のホットコーヒーを飲み干すとすっきりとした顔で言う。
「ごちそうさま」
和也はいつものように新聞を広げて読み始める。恵子は朝食の後片付けを終えると、「準備してくるね」と言って、自分の部屋に行ってしまった。
準備と言ったり、間に合わないと言ったり、今日の姉の言葉には何かが足らない。そこはぼかした言い方をしているだろうか。和也は少し時間の立つのがいつもと変わらない土曜日の朝を感じていた。
和也は新聞に一通り目を通した。目についた大きな文字の記事を斜め読みするくらいだ。政治や世界情勢の記事は読んでもよくわからない。
「和也、準備してきたから、まず裸になりなさい」
「え、裸」
「そうよ、下着から女の子になりたいのでしょう?昨日ブラとショーツとかとりあえずの物はもう買ってきたの。服はセーラー服よ。お母さんが大事にして東京に送ってくれたけど、そのまま一度も着ていないし、もう着ることもないから和也にあげる」
和也はパンツ1枚までは直に脱いだが、そこで迷っている。恵子は下着を和也の目の前に出し、クリーニングの薄いビニールを剥がしながら夏服のセーラー服を出していた。
「早くしなさい。そのパンツを脱いでこのショーツを穿きなさい」
和也は公然と認められたショーツを身につけることに興奮しながらも自分の手でショーツを手にこともできず、自分のパンツを脱ぐこともできない。
「早くしなさい。恥ずかしくはないわよ。私が小学生のころ、赤ちゃんだったあなたのおむつも何回も替えてあげたけど、覚えてないわよね。だから男とは思ってないわよ」
そう言うと恵子は、和也のパンツを膝まで一気に下げた。和也は「ワッ」と言いながら、自分の急所を隠す。それ幸いと恵子は和也のパンツを足元まで降ろすと、和也の足を上げさせ、和也はとうとうまる裸になってしまった。
「ほら、もう時間がないから」
そう言うと、恵子は買ってきたショーツを和也の足元に持っていき、もう一度足を上げさせてショーツを穿かせていく。あっけに捕らわれながらも急所を隠したいため、和也はショーツを途中から自分で上げた。急所が隠れたところで和也はてれ隠しもあって姉に言う。
「時間がないってどういうこと?今日は休みだろ」
「11時に行くところがあるの。だから早く言うとおりにしてくれる」
和也の疑問は解決していない。解決していないが、次から次へと恵子は命令してくる。ショーツを穿いた後、恵子は次にブラジャーを手にとって和也の手を通させる。和也は初めてのブラジャーの感覚が先走り、さっきの疑問はどこかに行ってしまう。恵子は和也の背中でブラジャーのホックをして止めると、和也の前からしみじみと見る。
「やはり、男ね、ブラにパッドを入れるわよ。それからショーツのところが盛り上がっているからもう1枚穿いたほうがいいわね」
恵子は、あらかじめ想像していたとおり、ブラジャーのカップのところにパッドを入れた。そしてもう恵子が穿くこともないだろう体操着用の紺色のブルマを和也に穿かせた。とはいえまだ男特有のこんもり感はあるがショーツ1枚よりかはましだ。
「こんなもんかな。でもサイズはぴったりね」
恵子はそういうとシミーズを和也に着させて、セーラー服も着させる。そこには見かけ上女の子が誕生していた。
「和也、腰のところでスカートを少し折るわよ」
和也が身につけたセーラー服のスカートは膝が少し隠れるくらいの長さだったが、恵子は腰のところで、2回折り曲げた。すると和也のスカートはひざ上10cmくらいにスカートになっていた。
「かわいくなった」
「ちょっと短いよ。それに少し寒いよ」
セーラー服は夏物しかなかった。5月の連休あけでは、衣替えが近いとはいえ、まだ寒い時がある。だが、冬物のセーラー服は探してもなかったのだ。恵子は確かに少し寒いかもしれないと思いつつ、かわいらしさ演出のためにスカートを短くしていったのだ。
「さあ、その椅子に座って」
恵子は次から次へと命令してくる。和也は自分の女の子の姿を大きな鏡で見てみたいと思いつつ、恵子の命令に従う。そんな気持ちを察したのか、恵子は次の行動に出る。
「和也、ちょっと次の準備をしてくるから、洗面所の鏡で見てらっしゃい」
恵子はそう言い残すと自分の部屋へ行った。和也は洗面所に向かい鏡の前に立つと「にや」と笑う。和也は身長150cmの小柄だ。後ろ姿や横の姿を見ていると恵子がまた呼ぶ。
「さあ、準備ができたからもう一度その椅子に座って」
和也が座るやすぐに恵子は和也のスカートを捲り、その端を和也の手に持たせる。
「何、すんだよ」
「和也は男にしてはまだ髭もほとんどないけど、足や手の毛は少しあるわね。それを剃るのよ」
「いいよ、やだよ」
「何言ってるの、女性の下着や洋服を着ても男丸出しなら私が恥ずかしいわ。妹として可愛がっておしゃれさせてあげるから言うこと聞きなさい。毛はまたすぐに生えるわよ。そう、動いちゃ駄目よ。大事なところのち近くの太ももからいくわよ。スカートをしっかり持ってなさい」
恵子は和也の言葉など眼中になく、クリームをふと腿から足の先まで塗っていく。塗り終わる、有無を言わさずカミソリで剃っていく。
「動いたら大変よ」
恵子は両足も両手も要領よくどんどん剃っていく。一番いいのは脱毛だが、今はこれが精いっぱいだ。
「ほら、まだスカートは捲ってなさい」
「だって、寒いよ」
恵子は次にハンドクリームをたっぷりと塗っていく。太ももから足の先、両手にもたっぷりと塗っていく。和也の肌から毛が消え、クリームで光沢が出てきた。今はやりの「赤ちゃんの肌」のようになる化粧水も考えたが、またの機会と考えていた。
「さ、最後かな」
恵子は手に櫛を持っていた。和也の髪の毛はだらしなく伸びていて肩にかかるくらいの長さだった。似合いもしない癖にアイドルタレントのような髪型をしていた。きれいな七三分けではなく、なんとなく七三で分けている和也の髪の毛を頭の上からブラッシングを繰り返していく。和也の目の前は髪の毛一杯で目の前が見えなくなっていた。
「少し、切るから動いちゃだめよ」
恵子はそう言って和也の同意を得る前にもう和也の眉毛のあたりの前の髪の毛をばっさりと切った。
「何、すんだよ」
「おかっぱにするのよ。最初の女の子の髪型では常識でしょ。もう少し切るわよ」
和也は突然のことでびっくりしていたが、もう元の髪型に戻ることはできない。長髪を諦めて普通の男性のカットをすれば元にもどるかと諦め始めていた。恵子はそんな和也の気持ちは知らずに、おかっぱらしく髪の毛を切るとブラッシングで整える。
「目を閉じて、和也。アイシャドウよ。それから化粧水と口紅。あとで和也の化粧道具一式も買ってあげるから」
恵子は和也の顔に軽く化粧をすると鏡を和也の前に出した。そこには薄化粧をされた少女の姿があった。
「どう?かわいいわよ。さ、美容院でおかっぱ頭の仕上げをしてもらいましょう」
「美容院?おかっぱ」
「そうよ、まずおかっぱ頭のかわいい女の子になりましょう」
「でも、そしたら大学へいけないよ」
「何言ってるの、女の子になるなら少しの期間は女の子になり続けなさい。そうしないといつまでたっても女の子らしくならないわよ」
「でも」
和也は迷う。何人かの顔みしりの友達ができたが彼らに何と言えばいいのか。気づかれないようにするにはどうしたらいいだろう。だが、恵子は切った髪の毛をきれいに叩いて、床に落ちた髪の毛も掃除機できれいにすると和也の手を取って歩きだそうとする。
「ちょーどいい時間だわ。美容院は11時の予約だから。さ、行きましょう」
「でも」
「女の子になりたいんでしょ、妹にしてあげるからって約束したのだから、行くわよ。それとも、下着泥棒として警察に行きましょうか?」
「ねえさん、それはもう言わないって約束だろ」
「じゃ、ついてらっしゃい」
いつの間にか女学生用の革のローファが玄関に用意してある。靴ひもがない靴をローファと言うが、やはり男性用と女性用では少し形が違う。女性用は同じサイズでは男性用に比べて幅が小さい。恵子は少し大き目の女性用ローファも昨日買っておいたのだ。
「そうそう、ハイソックスを穿かなきゃね」
恵子は膝までのハイソックスを和也の穿かせるとローファも穿かせた。和也はおずおずと立ち上がるとローファは少しきつめだが、歩けそうではある。
「よかったわ。丁度いいわ。歩けるわよね」
和也はゆっくりゆっくりと恵子の後を着いて行った。マンションから駅までの道中に美容院があるのを和也も知ってはいたが、自分が入ってカットしてもらうことになるとは思っていなかった。
「こんにちは、三村です」
「いらっしゃい。10分ほど待ってくださる。すいません。コーヒーをお出ししますので少し待ってください。前の予約の方の御都合で申し訳ありません」
オレンジ美容院の隣には家族で経営している喫茶店アップルがある。美容院のママはすぐ電話をするとコーヒーを頼んだ。和也は朝の2杯のコーヒーと夏服のセーラー服による寒さと少しトイレに行きたくなっていた。今までそういう時は太ももを合わせて我慢するが、今はスカートだ。同じように太ももを合わせると生の肌を合わせることになる。少し冷えた太もも同士を合わせると余計に寒さを感じるが、合わせて動かしていると少しは暖かくなる。それでもそういうことが目立つと姉の恵子に見つかってしまいそうなので、小刻みに太ももを合わせていた。
ほどなくして温かいコーヒーとお冷の水が届いた。和也はいよいよおかっぱの髪型にされるかと思うと緊張して喉が渇く。寒さの理由も合って暖かいコーヒーを手で摩りながら飲んでいく。そうして一気に飲んでしまうと、口直しに水も飲んだ。それに気づいた美容院のママは、こっちをちらちらと見ている。
「あら、お代わりのコーヒーを注文しますね」
和也は声を出したくないので首を横に振った。声はまだまだ男のままだ。それに気づいた恵子が代わりに答えてくれる。
「いえ、御馳走さまです。もう、御構い無く」
和也は声を出さずに済んだが、その緊張感は高ぶるばかりだった。その緊張を落ち着かせようと、残りの水も一気に飲みほしてしまう。そして一息つくと、ママが呼ぶ。
「お待ちどう様、こちらへどうぞ」
和也は恵子に手を引かれて美容院の椅子に座る。恵子はこの子はしゃべれないので、私が代わりに話すからと説明し、そして素人によるおかっぱの髪型をかわいらしいおかっぱにしてほしいと頼んだ。美容院のママは和也の髪の毛をカットし始める。
和也はしばらくはさみの音に耳を傾けている間、美容院のママと恵子は世間話を始めた。和也が妹であるということの話はうまく最小限にして恵子は会話をはずませる。
小1時間たっただろうか。目の前にいただらし無かった髪型はきれいにそしてかわいらしい髪型になっていた。
「さ、どうかしら」
ママは鏡をもって和也の後や横を写し出す。そこには、肩から少し上の所で軽く内側にカールされた和也のおかっぱ姿があった。
「ええ、かわいらしくできたわ、ありがとう」
恵子は料金を支払い和也の手を引いて美容院を後にするのだった。美容院から次へ向かったのは衣料品やレストランなどいろいろな店が入っているショッピングセンターだ。駅を通りこし、少し歩くと見えてくる。最初に向かったのは下着専門のしゃれた店だった。
恵子は和也の下着のサイズを言うと、安い下着を選ぶ。和也は初めて手に取る女性用下着に興奮しながらもブラジャーとショーツ、それにシミーズを3着選んだ。いづれもフリルがたくさんついたかわいらしい下着だった。
会計を済ませると、今度は洋服売り場へ行った。ワンピース、スカート、ブラウスなど3着購入した。和也は一度にたくさんの服を購入してもらい嬉しかったが、下半身がそろそろ限界だった。朝から3杯のコーヒーと水、それに慣れないセーラー服のミニスカートに何ともしがたいのが、寒さだった。衣替えが近いとはいえ、今日は肌さむい。
「和也、どうしたの」
「いや、少し寒いから家に帰ろう」
「あなた、少し震えてるの、寒いの?さっき買ったセータを着ましょう」
「いや、それほど寒くはないけど、その、トイレ」
「ああ、あそこにあるから行ってらっしゃい」
恵子は簡単に言う。和也はトイレのありかはわかっているが、女性用トイレには入りにくい。かといってこのセーラー服姿で男性用トイレにも入れない。だから和也は家に帰りたかった。朝からの利尿性があるコーヒー3杯に水一杯と寒さは大きな利尿効果を生んでいた。和也はもじもじしたいのを我慢してじっと立っている。
「行かないの。お姉ちゃんおなか空いちゃった。少し寒いのなら、何かあったかい物を食べましょう」
「もう帰ろう」
「あら、まだ女の子になるための化粧道具でしょ、靴でしょ。ネグリジェでしょ。まだまだ買う物があるわよ」
和也はいい機会だからこの際いろいろ買ってほしい。金欠病でもあるし、姉の機嫌がいいときにたくさん買ってもらいたいと思うが、本当にそろそろ限界だ。小便が出てしまいそうだ。
「だから早く行ってらっしゃいよ。あそこのトイレなら女性用は少し並んでいるけど、たいしたしたことないわよ。なんなら男性用トイレを借りたら」
恵子は平気で女の子になっている和也の前で言う。言われた和也は周りで聞いていた人がいるのではと思わず下を向いてしまう。
和也は「クソ」と思う。今から家に帰ってトイレに入るにせよ、最低でも5分いや、ショッピングセンターの大分奥まで歩いているから10分はかかる。ここは「グッ」と我慢しないと本当に漏れてしまいそうだ。和也はそう思うと体にシャキッと力を入れておしっこを我慢していることを忘れようとする。人間は不思議なもので、何かに気を取られると以外に尿意も遠のいていくものだ。
「姉さん、大丈夫だよ」
「本当?ここで待っているから早く女性用トイレに行ってきなさい」
「大丈夫だよ」
「そう、なら暖かいラーメンでも食べて温まれば大丈夫よ。このショッピングセンターにあるラーメン伊藤は知ってる?美味しいのよ」
そういうと恵子は和也の手を引いて歩き始める。和也の一度治まった尿意だが、またいつぶり返すかと思うと不安になりつつも付いていくのだった。恵子はさらにショッピングセンターの3階までエスカレータで行く。和也はスカートの下が見られるのではないかと心配でスカートを抑える。でもそれは無意識に尿意を抑えるためでもあった。
ようやく目当てのラーメン屋に入ると店の中は湯気の性もあり、少し暖かい。その暖かさに和也はほっとする。
「お勧めは塩ラーメンよ、和也は何にする?」
「うーん塩ラーメンと餃子」
「ラーメン食べたら、あとはさっきも言ったけど、化粧道具でしょ、ネグリジェでしょ。靴でしょ、ハンドバッグに、でも安物よ」
和也はそろそろそういうことはどうでもよくなってきていた。それよりトイレだ。さっきより尿意が高くなっているのを感じている。
「はい、塩ラーメン2丁、お待ち」
早速、和也も恵子も食べ始める。冷えた体が塩の香りとしこしこした麺が体を温めていく。ラーメンを食べ終わるころには、和也の顔にうっすらと汗をにじみ出ていた。和也はしばしの間、尿意を忘れることができた。手で汗を拭うと恵子がピンクの刺繍入りハンカチを渡してくれた。ほんのりと香水のにおいがする。
「そう、ハンカチも買わなきゃね」
恵子はハンカチを手渡すと、女の子のいろいろな話をしてくる。和也は素直にうなづきながら話を聞くと、いつもの癖で残っているラーメンのスープを飲み干してしまう。遅れて出てきた餃子も平らげた。そうすると喉につまりそうになる。思わず、お冷の水も飲みほしてしまう。
「あーうまかった」
水を飲み干した後だった。後悔先に立たずというが、これ以上の水分補給は尿意を高めるだけなのに、ラーメンのスープも水も全て飲み干してしまった。そうするとまた尿意が襲ってきた。せっかく温まった体に武者震いが走る。
「あら、寒いの」
「いや大丈夫、汗が引っ込んで少し寒くなっただけだよ」
「そう、ちょっと、化粧を直してくるわね」
そう言うと恵子は、ラーメン屋から出ていった。和也はまた、尿意との戦いと思いきや、ラーメンの温かさで少し吹っ切れた。姉さんはトイレ大丈夫なのだろうか。そうか、化粧を直すというのは、化粧室で用を足すという意味か。そういえば、初めての女性下着売り場でいろいろ見ている間に、姉さんは少し居なくなったことを思いだした。そうか姉さんはこのショッピングセンターに来てからもう既に2回もトイレに行っていることになる。それを思うと、和也も早く用を足したいと思う。でも女性用トイレには恥ずかしくて入れない。ましてやこのセーラー服姿では男性用トイレには入れない。家に帰って安心して用を足したいと思うが、そうすると恵子に早く女性用トイレに行きなさい、と言われるので行けない。そんなことを考えていると恵子が戻ってきた。
「お待たせ、少し混んでいてね。じゃ、残りの買い物を済ませましょう」
恵子は買い物したものを和也に持たせると会計に行く。和也は恵子の後をついてラーメン屋の外に出た。時計を見るともう2時を過ぎている。朝起きてトイレに行った後、朝食で利尿効果のあるコーヒー2杯、美容院でさらにコーヒー1杯と水1杯、昼食にラーメンのスープ全部と水1杯、加えて衣替え前に関わらず夏用セーラー服をミニスカート化し、おまけに一番影響がある5月の薄ら寒い気温だ。ショッピングセンター内も暖房を入れるわけがなく、むしろ人がたくさんある場所だから冷房が弱く入っているようだ。そういう事が和也の尿意を高めていた。恵子はそんなことは何も気がついていない。残りの買い物をしようとあちらこちらの店に連れてゆく。気がつけば3時になっていた。和也はまた少し前から襲ってきた尿意と戦っていた。もう、かなりやばい。
「姉さん、トイレに行きたいから家に帰ろう」
和也は勇気を出して。ダメモトで言ってみるが返事はやっぱり同じだった。
「行ってらっしゃいよ、ほら、あそこにあるわよ。この3階のトイレは少し空いているみたいよ」
恵子は何の不思議もなく答えるが、和也はもう限界だ。立ちながら両太ももをこすりつけ、もじもじとしている。
「早く行ってらっしゃい、いま、女性トイレは混んでないわよ」
「い、いや、家のトイレがいい」
「何、言ってるの、女の子なんだから早く女性用トイレに行ってらっしゃい」
「だめ、恥ずかしいから」
和也の尿意はかなり限界だった。そろそろと女性用トイレに行こうと歩き出すが、セーラー服を着ているとはいえ、男が女性用トイレに入ることを自分で許せなかったので、数歩で止まってしまう。
「仕方ないわね」
恵子は和也の手を取ると女性トイレに連れていこうとする。トイレは前方20m位先ににある。和也は手を引かれて数歩歩くが、また、止まってしまう。
 

大人の赤ちゃん返り
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