スカートめくり

その4

エレベータでマンションのロビーに降り、エントランスへ向かう。その途中のソファの部分に目を向けると、あのミナちゃんがまた居る。ジュースを美味しそうに飲みながらソファに腰かけ、短い足をブラブラしている姿はなんともあどけない。見て見ぬ振りをしながらソファの前を通り過ぎようとすると、またあの言葉が聞こえる。
「あ、おむつのお姉ちゃんだ」
和也は、またスカートを捲れておむつをさらけ出すのはこりごりと肩に力を入れて見まがえる。早く通りすぎようとするが、ミナちゃんは和也と恵子の前に出てくる。
「あら、こんにちわ、ミナちゃん。教えてもらったセーラームーンのおむつは買ったわよ。ありがとうね」
恵子は先日のスカート捲り事件のことを覚えているので、先手を切ってミナの相手をする。ミナは相変わらず罪悪感はない。昨日は幼女の好奇心からスカートを捲っただけだ。
「そう、よかった。じゃ、今日はセーラームーン?」
「昨日の夜はセーラームーンよ。でも今は違うの」
そこへミナのママがやってくる。ミナは和也がどんなおむつをしているか興味心身だが、ここでまた和也のスカートを捲ってどんなおむつかを確認したら、そばに居るママに怒られることはわかっている。
「先日はすいません。この子がオイタをしまして」
和也も本当は怒りたいが、声を出すと男ということがばれそうで黙っている。恵子とその幼女のママはお互いの自己紹介をするとやっぱりこのマンションの住人であることが分かった。
「205号室の三村と言います」
「105号室の杉山と言います。よろしくお願いします」
軽く自己紹介をすると、恵子と杉山はその場を別れた。和也と恵子と芳江はエントランスの方に向かって歩き出した。ミナもこの時は、バイバイと手を振って別れるいい子だった。だが、ミナの好奇心は手を振るのとは逆にどんどん大きくなっていく。あの大きいお姉ちゃんは今日どんなおむつをしているのだろう。そう思うが早いがミナは和也の方に駆けだして、あっ、と言う間もなく和也のプリッツスカートを後から捲りあげる。
「あ、お花のおむつね」
「ミナ、もう承知しませんよ」
駆け寄った杉山はミナの手を下ろし、しゃがむとミナと同じ目線で叱る。ミナの目には涙があふれ出てそのうち泣き始める。
「大丈夫よ、大丈夫だからもう泣かないでね。今日は急ぎますので失礼しますね」
恵子は和也の事はお構いなしにミナを勇気付けると足早の和也の手を引いてその場を立ち去る。泣きたいのは和也だ。また、あの子にスカートを捲られ、おむつを見られ、おむつのお姉ちゃんと呼ばれることが悔しい。だが、お姉ちゃんということは幼女が見ても和也は女の子に見えているということだ。それを思うと、もう忘れようと思う。

電車で10分ほど揺られるともう銀座だ。最近はヨーロッパのスェーデンから進出してきたH&Mというファッションのお店が話題になっている。その他にも有名ブランド店がどんどん進出し、銀座は活気を取り戻している。
予約してあったネールサロンで和也の爪がきれいになると、芳江の希望で有名デパートに入る。特に何かがほしいという訳でもなく目の保養のウィンドウショッピングだ。
バーゲンセールをしている1階のフロアをブラブラして歩き、エスカレータで2階に上がると化粧品売り場だ。
「和也、プロの人にサンプルでお化粧してもらいなさい」
恵子はそう言うと和也の応答も聞かずに、店員と話しを始めている。恵子が和也の方に指をさすと、もう芳江が和也の背中を押して、椅子に座らせる。
「かわいい感じですね。アイシャドウと口紅を致しますね」
店員は和也のことを十代後半位の子供と大人の中間の世代と思ったのか将来の見込み客になると思われ、やさしい感じで化粧を始めていく。プロの店員による化粧をされていくと和也はよりかわいい感じの顔立ちになっていく。
3階は女性下着売り場になっていた。昨日一通り買ってもらったので、特にほしいものはない。だが、芳江は和也のハイソックスを見ると、ストッキング売り場へと向かう。芳江と恵子は和也のために買った女性用下着や洋服、その他の小物を和也の部屋のクローゼットへ整理していて、ストッキングが無かったことを思い出していた。
売り場には、パンティストッキング、ショートストッキング、ロングストッキングそして最近流行のカラタイ(カラータイツ)やガラタイ(柄タイツ)などのいろんな種類が並べられている。
「和也はおむつしてるからパンティストッキングやタイツは無理かしら」
「そうね、ショートか、ロングにガーターベルトかしらね」
和也はその会話の意味が良く分からない。ストッキングと言えばパンティストッキング位しか思い浮かばないが、ショートは短いものだと思う。ロングは長いストッキングなのだろうが、ガーターベルトがよくわからない。
「ガーターベルトって何?」
「ロングのストッキングを太もものところで落ちないように留めるベルトよ」
「へえ、でもブラジャーみたいで変なの」
「そうね、じゃ家に帰ったら教えてあげるわ」
和也はブラジャーの形に似ているガーターベルトのイメージがよくわからない。一方芳江はガーターベルトを触りながら、一人悦に入っている。恵子は心配になり芳江の顔を心配そうに覗き込む。
「母さん、大丈夫?どうかした?」
「ええ、大丈夫よ。昔は私もガーターベルトでストッキング穿いたけど、捨てちゃったわね。でもね、これいいかもね」
「何がいいの?」
「「和也にガーダベルトはいろいろ使えるかもしれないわ」
「へえ、どんなこと?」
「もうちょっと整理してから話すわ。和也はおむつしてるけどちょっと大きめにすれば穿けるでしょう」
芳江は意味ありげな薄笑いをすると、カラーガーターベルトとロングストッキングの色違いを和也に、それから自分用にも購入した。芳江はなにかを思い出したようにせわしくなっていく。
「恵子、私はこのまま、田舎へ帰るわ。ちょっとやることを思いだしたので。和也の昔のおむつでしょ、恵子の古着でしょ、きれいにしてまた宅急便で送るから。そしてまた水曜日に東京に来るわ」
「ええ、わかったわ」
「それじゃ、ね、和也」
和也も笑って芳江と別れると。もう5時だ。昨日に続いての買い物なので少し疲れ気味だ。そしてもう一つ早く家に帰りたくなってきた理由が出てきた。それは尿意だ。朝一番にトイレに行ったにせよ、お昼に起こされてから夕方まで一度もトイレに行っていない。そう思うと膝を露出している足が冷えていることを改めて感じる。デパートの中は人込みの性もあり、弱く冷房が入っているようだ。見渡してみればデパートの店員はみなロングスカートにストッキングで膝を露出している人はいない。若い客の中にはミニスカートの女性も数人見かけるが、膝を露出している若物は少ない。
「ねえさん、もう帰ろう」
「そうね、でも夕飯のおかずでも買っていきましょう」
「でも早く帰りたいよ」
「あら、和也またおしっこ?女性用トイレに行く?でもおむつしてるからお漏らしでもいいわよ」
恵子は和也の顔を見て、クスッ、と笑う。和也は昨日のトイレでのお漏らしを思い出す。あのようなことはもう起きないと思うが、夕方のデパートの人込みからすると女性トイレの行列は耐えられない。恵子は有無を言わさずデパ地下の食料品売り場に行くと物色を始める。恵子はサラダと有名ホテルのハンバーグそしてフランスパンを購入するとようやく家に帰るモードになった。
「さ、帰りましょう。おむつ大丈夫?濡れて無い」
「大丈夫だよ」
和也はだんだん激しくなってくる尿意と戦いながらもようやく家に帰ることにほっとする。デパートから外に出て電車の駅までは外を歩く必要がある。5月にしては今日もうすら寒い。足早に電車の駅に向かう2人だった。

 

大人の赤ちゃん返り
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